固形腫瘍の増殖に伴う腫瘍内酸素の低下は、浸潤・転移の支配要因になるばかりでなく、放射線療法および化学療法に対する抵抗性を獲得する為に、主要な再発原因の一つであり、低酸素状態の癌に対する診断法および治療法の開発が期待されている。そこで、本研究では、低酸素刺激により発現する癌細胞自身の新規表面分子の同定および特異的モノクローナル抗体を作製することを目的とする。さらに得られた抗体の診断および治療への有効性についても併せて検討を行うことを目的とする。 今年度は、前年度に続き低酸素特異的表面分子に対する抗体の作製に集中した。低酸素刺激した乳癌細胞MCF-7をBalb/cマウス3匹に免疫し、脾細胞とP3U1をPEG法を用いて融合させることにより、ハイブリドーマライブラリーを構築した。得られたライブラリーに対して、低酸素刺激または未刺激細胞に対する抗体の結合性を評価した。特に治療・診断に有効である膜タンパク質への結合を単純に評価するためにFACSを用いてスクリーニングを行った。その結果、正常酸素培養した細胞に比べて、低酸素刺激細胞に対する結合性の高いクローンが一つ、また逆に正常酸素培養において結合性の高いクローンが1つ得られた。現在、2つのクローンの抗原同定を行っている最中であるが、これらのクローンは単に診断・治療のためのデバイスであるだけでなく、低酸素誘導性の癌の進展メカニズムの解析へと繋がると考えられる。
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