本研究助成を受け、平成19年度は、主に肺線維症での発現遺伝子プロファイリングを行った。BLM投与後3週目に肺組織からのtotal RNAを採取してマイクロアレイを行った。すなわち、BLM投与2週から3週目までPBSもしくはSCGB3A2を投与したマウス肺における遺伝子発現をマイクロアレイにて検索した。その結果、BLM投与肺では、プロコラーゲン遺伝子群の顕著な発現増加が見られ、SCGB3A2投与によってそれらは抑制されていた。この結果は既に組織化学的解析によって得られているSCGB3A2がBLM誘導性肺線維症を改善する現象と一致する。また、SCGB3A2投与によってサイトカイン遺伝子群の遺伝子発現が認められた。この結果は、我々が報告したSCGB3A2が肺組織において抗炎症作用を持つことを裏付けた(Am J Respir Crit Care Med. 2006 173(9):958-964.)。加えて、肺組織の線維化は細胞の損傷をきっかけに炎症を経過して発症されることから、SCGB3A2が肺組織の線維化抑制に効果を持つことを示唆した。さらに、マイクロアレイの解析からSCGB3A2によって有意に高発現した遺伝子として肺上皮細胞マーカー遺伝子が認められた。私は、SCGB3A2の受容体は肺上皮細胞ではなく、間充織細胞に存在する可能性が高いという結果を得ていることから、この結果に対し、SCGB3A2による直接的な制御作用によるものか、現象にすぎないのかという疑問が残る。そこで、SCGB3A2の作用部位が肺上皮マーカー遺伝子上流域に存在するか否かを検討していく。また、SCGB3A2によって代謝経路を制御する遺伝子群に変動がみられており、SCGB3A2による遺伝子発現変動からPathway解析を行っているところである。今後、マイクロアレイ解析における遺伝子抽出条件を変更し、再抽出することも試みたい。
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