研究概要 |
腎障害から腎不全へと至る過程においてレニン-アンジオテンシン系のAT1受容体情報伝達系の腎局所での活性化は病態進展の中心的役割を演じている.AT1受容体への新規直接結合性機能抑制因子としてATRAP(Angiotensin II Type 1 Receptor Associated Protein)が報告されており,申請者はATRAPが生体組織に広く分布することを世界で初めて報告した.本研究課題では,このATRAPについて,高レベルの発現が認められる腎での発現調節と機能に焦点をあてて,培養細胞,実験動物,およびヒト腎組織を用いて細胞レベルおよび個体レベルでの総合的解析を行い,ATRAPの腎細胞での機能解析,および生体腎での詳細な発現分布と病態での発現調節について明らかにすることを目的とした.平成20年度は,主にATRAPの高血圧ラット腎における発現調節およびヒト腎における発現分布と腎炎・糖尿病性腎症における発現調節について検討した.1.遺伝性高血圧ラットの腎におけるATRAPの発現調節の検討遺伝性高血圧ラットにおける高血圧および腎病変の進行にともなう腎ATRAPの発現調飾を,Northernblot法,Real-time PCT法,Western blot法,および免疫組織法により検討した.また,これら遺伝性高血圧ラットに対してAT1受容体拮抗薬(ARB)をはじめとする各種降圧薬を投与し,これら降圧薬の降圧効果と腎硬化病変改善度について,腎でのATRAPおよびAT1受容体,Na+トランスポーターやNa+チャネル,および腎線維化に関与する細胞外基質遺伝子(TGFbeta,collagenなど)の一連の発現の変化と関連づけて,降圧薬聞に効果の相違があるか否かも含めて検討した.2.ヒト腎組織でのATRAPの発現分布および腎炎・糖尿病性腎症での発現調節についての検討ポリクローナル抗ヒトATRAP抗体を作製して,特異的にATRAP蛋白を認識することを確認した.そして,腎生検時に得られる腎組織における内在性ATRAPの局所発現解析のために,腎血管壁,糸球体,尿細管各セグメントにおけるATRAP蛋白発現レベルについて,抗ATRAP抗体を用いて免疫組織染色法により詳細に検討するとともに,AT1受容体発現部位との共局在性についても比較検討した.また,慢性腎炎や糖尿病性腎症におけるATRAP蛋白発現レベルおよびAT1受容体発現部位との共局在性について,および薬物による治療効果との関連性などについて検討を加えた.
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