抗癌剤の副作用が癌化学療法の投与制限毒性となることは多く、その発現を軽減することは化学療法の有効性を高める上で極めて重要である。多くの固形癌に適応を持つシスプラチン(CDDP)、大腸癌の標準治療レジメンであるFOLFOX(オキサリプラチン+ロイコボリン)、乳がんのパクリタキセルなど末梢神経障害(しびれ)が投与制限毒性となる化学療法は多い。しかし、現在のところ抗癌剤の副作用による末梢神経障害に対して確立した治療法はなく、そのメカニズムは殆ど明らかになっていない。申請者は、神経増殖因子(NGF)添加により神経様細胞に分化させたPC12細胞(ラット褐色細胞腫)をCDDP処理したところ、濃度依存的な突起伸長の退縮を認めた。しかし、当該CDDP濃度においてPC12細胞生存率は変化せず、突起伸長に関与すると考えられたSYNAPSINあるいはGAP-43の活性化は影響を受けなかった。細胞増殖・細胞死に関与するスフィンゴ脂質代謝物を、申請者が新たに開発した液体クロマトグラフ・タンデム質量分析装置(LC-MS/MS)用いた分析法を用いて定量した。NGFにより分化させたPC12細胞にCDDP処理を行ったところ、細胞死に関連すると考えられる特定のアシル鎖のセラミドの上昇を観察した。また、神経幹細胞の神経分化誘導作用を有するデセン酸が、NGFにより神経様細胞に分化させたPC12の突起伸長に対するCDDPの退縮効果を抑制することを見出した。一方、増殖に関与すると考えられるスフィンゴシンキナーゼの活性化は認められなかった。従って、抗癌剤による末梢神経障害にスフィンゴ脂質代謝が関与していることが示唆された。
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