近年の研究により、癌抑制遺伝子p53の失活が発癌の引き金になっていることが明らかにされた。しかしながら、変異したp53を元通りにすることは困難である。そこで、p53蛋白質に代わってp53下流遺伝子P21の転写を促進するような人工転写因子を開発し、癌予防に応用することにした。 平成19年度において、プロモーター領域のDNA配列に特異的に結合し三重鎖を形成できるオリゴヌクレオチド(TFO)を転写活性化プロリンリッチ配列と膜透過性TAT配列を有するペプチドとコンジュゲートすることによって、人工転写因子モデルの作製法を確立した。しかしながら、レポータープラスミドを用いたルシフェラーゼ法にて転写活性化能は認められなかった。 そこで平成20年度においては、天然核酸の“形の自由度"を拘束することにより、標的となるDNAやRNAに対する結合親和性を高め、かつヌクレアーゼ(核酸分解酵素)耐性をも獲得する架橋構造を核酸分子内に持つ人工核酸BNA(bridged nucleic acid)を用いた人工転写因子モデルを作製した。オリゴヌクレオチドとペプチド間のリンカーの長さ、オリゴヌクレオチドに対するペプチドの向き、転写活性化ペプチド配列といった点を考慮し、BNA型人工転写因子モデルを種々作製することに成功した。 ゲルシフト法により、これらの転写因子モデルは従来の天然型モデルに比べてはるかに効率的に標的DNA配列と三重鎖を形成できることを確認した。 平成19年度同様にルシフェラーゼ法にて転写活性化能を評価したが、作製した転写因子モデルの中に転写活性能を有するものを見出すことはできなかった。
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