研究概要 |
本研究では,大脳辺縁系・脳幹における急性ストレス反応を解明することを目的としている.各種中毒死例の脳組織内・脳脊髄液・血液における神経伝達物質であるドーパミン,セロトニン,アドレナリンとノルアドレナリンを測定し,マクロ的な急性ストレス反応を評価した.急性中毒死の36剖検例と非中毒死136例について血液,心膜液および脳脊髄液のアドレナリン(AD),ノルアドレナリン(NA),ドパミン(DA)およびセロトニン(5-HT)の測定値を比較検討した.中毒死では心内・末梢血,心膜液および特に脳脊髄液のDAの上昇が特徴的で,血中ADとNA,心膜液および脳脊髄液のNAと5-HTの上昇傾向がみられた.薬毒物別にみると,覚せい剤中毒では各部位のカテコラミン類が上昇傾向を示し,特に心内血と心膜液のADが高値であったが,血中濃度は症例によって大きく異なり,心膜液の5-HTは低値であった.向精神薬中毒では各部位のDAおよび心膜液のADは低値で,それ以外は覚せい剤と同様の上昇傾向がみられた.一酸化炭素中毒においては各部位のNAおよびDA並びに心膜液および脳脊髄液の5-HTは高値を示した.これらの濃度分布は各薬毒物の中毒作用を反映している可能性がある. また,致死的外傷が生体に及ぼす病態を解明するため,剖検例336例におけるエリスローポエチン(EPO)およびC反応性蛋白(CRP)濃度を分析した.損傷死に関しては,急性死(生存時間1時間以内),亜急性死(同1〜1日以内)と遷延死(同1日〜1週間以内)に分けて検討した.その結果,右心内血EPOは,鈍器損傷例で,急死,亜急死および遷延死群の順に有意差が認められた.亜急死群では多発外傷死群が有意な高値を示した(p<0.01).鋭器損傷死群では,心臓・大動脈損傷群が腹部臓器・静脈損傷群よりも有意な高値を示した(p<0.001).一方,右心内血CRPは,鈍器損傷例の単独外傷群で,急死,亜急死および遷延死群の順に有意差が認められた(p<0.01),全例における右心内血EPOおよびCRPの測定値と受傷後経過時間との関係は,それぞれ有意な上昇が認められた.特に,鈍器損傷死の急死・亜急死例では,右心血EPOおよびCRPは多発外傷群で顕著な上昇を示した(r=0.8,p<0.001),以上から1日以内生存例の右心血EPO上昇の要因としては,外傷の重傷度と受傷後生存時間が最も影響したと考えられ,1日以上生存例では低酸素血症や感染症が影響したと考えられた.
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