本天然物は1958年、植物病原菌Ophiobolus miyabeanusの培養液より単離され、有用な生物活性に加え、C14位オキサスピロ環を含む特異な4環性骨格を有しており、有機合上成非常に興味深い化合物である。これまで多くの研究グループにより類縁体の合成研究が報告されているが、全合成はophiobolin Cの1例に限られており、またCD環部にあたる1-oxaspiro[4.4]nonane骨格の構築については未だ報告例はなかった。そこで研究代表者は、CD環部の立体選択的構築法を開発し、類縁体の中でも複雑な構造を有する本天然物の収束的かつ効率的な初の全合成を目的とし研究に着手した。 これまでに、A環およびCD環部の立体選択的構築法の確立、および両者をホウ素エノラートを経由するカップリングにより高収率かつ単一の異性体としてカップリング成績体を得ることに成功している。続く脱水反応は検討の結果、Burgess試薬を用いた場合にのみ所望の成績体が高収率にて得られた。次いで、合成における問題点となる水素添加によるC2位不斉中心の構築を検討した。この際、A環上の2つの置換基による遮蔽効果によりジアステレオ選択的水素添加が進行し、所望の立体配置を有する成績体が得られると予想した。検討の結果.MeOH、THF混合溶媒中、Raney Niを触媒とすることで期待通り立体的に空いた面から反応が進行し、高ジアステレオ選択的に所望の成績体を得ることに成功した。続くケトンに対するメチルリルチウムの付加も同様に立体的に空いた面から進行し、単一の異性体として付加体を与え、ここに本天然物が有するすべての不斉中心の導入に成功した。現在は、本天然物の初の全合成を達成すべく得られた化合物から数工程を経て、閉環メタセシス前駆体を数種合成し、B環部に相当する八員環閉環反応の検討を行っているところである。
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