本研究の目的は咀嚼器官と高次脳機能とのクロストークの科学的根拠の解明である。行動生理学・電気生理学的に咀嚼器官の活性化によるストレス軽減の現象をとらえ、その現象に対する口腔と高次脳とのネットワーク、メカニズムを検証し、斬新の一器官としての口腔機能の重要性を歯科の立場から立証する。本年度は、研究計画では実験3と実験4に該当する咀嚼器官から入力系の検証に従事した。また、19年度に計画通りに遂行できなかった課題についても実験を行った。2年間の成果としては、行動実験において設備、環境、実験の施工状況に関して問題はなかったが論文となるような先進的なデータがなかった。一方、電気生理的実験に関しては、咀嚼器官の活性化はストレス減弱効果の立証と咀嚼器官からの入力経路の解明の手掛かりとなる可能性が示唆される結果を報告することができた。咀嚼器官の活性化は拘束ストレスにより減弱する海馬CA1領域の長期増強(LTP)を回復させることが考えられ、その回復はグリシンを投与することによってストレス群でも観察できたことからNMDA受容体が関与しているであろうと考察した。実験4に該当する神経ヒスタミンの実験において、ヒスタミンH1受容体のアンタゴニストであるpyrilamineを用いることで咀嚼器官の活性化によるストレス減弱効果はヒスタミンが関与する可能性が示唆され現在、論文を投稿中である。これらの結果は更なる詳細なメカニズムの検討を重ねる必要はあるが、先駆的な実験系のため大変意義のあるデータでる。
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