心線維芽細胞は心筋の近傍に位置し、常時物理的な刺激に曝露されている細胞である。また心肥大のような病態時にはより強い物理的刺激にさらされると考えられている。そこで、心線維芽細胞に発現しているイオンチャネルの中でも伸展や浸透圧といった物理的刺激により機能が制御されるイオンチャネルに注目して研究を進めた。 TRPV4は低浸透圧刺激により活性化することが知られているイオンチャネルである。まず心線維芽細胞におけるTRPV4 mRNAおよびタンパク質の発現を明らかにした。次に心線維芽細胞に低浸透圧刺激を与え、細胞内Ca2+濃度が有意に上昇することを見出した。この細胞内Ca2+濃度上昇は細胞外Ca2+を除去することにより消失し、TRPVチャネル非選択的阻害薬ルテニウムレッド(RuR)によっても抑制された。またTRPV4選択的アゴニストである4αPDDを投与すると細胞内Ca2+濃度の上昇が観察された。この4αPDD誘発細胞内Ca2+濃度上昇も細胞外Ca2+除去やRuR処置によって抑制された。次に細胞外から流入するCa2+を直接測定するため、心線維芽細胞にパッチクランプ法を適用した。電位固定下、4αPDD投与により非選択的カチオン電流の活性化が観察された。この4αPDD誘発非選択的カチオン電流はRuR処置により抑制された。またTRPV4を選択的にノックダウンするsiRNAを心線維芽細胞に処置した結果、4αPDD誘発非選択的カチオン電流および4αPDD誘発細胞内Ca2+濃度上昇は有意に減少した。これらの結果は心線維芽細胞においてTRPV4が機能発現していることを明示している。 心線維芽細胞の細胞内Ca2+動態に関する知見は少なく、今回の結果は大きな意義があると考えられる。また、この研究を進展させることで、心線維芽細胞における細胞内Ca2+濃度上昇と分化・増殖の関係が解明されると期待される。
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