本研究の目的は、細胞死におけるHRD1の関与とそのメカニズムを明らかにすることである。前年度の研究において、滑膜細胞株をHRD1発現を誘導する薬剤であるCa^<2+>-ATPase阻害剤のタブシガルギン(Tg)で処理すると細胞死が誘導されることを明らかとした。 本年度は細胞内カルシウムイオン濃度([Ca^<2+>]i)変化を引き起こす薬剤に注目し、細胞死に与える影響について検討した。生理活性を持つスフィンゴ脂質であるスフィンゴシン1リン酸(S1P)あるいはスフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)を滑膜細胞に投与すると[Ca^<2+>]iの上昇が確認された。SPC、S1Pによる[Ca^<2+>]iの上昇の一部は、小胞体からのCa^<2+>の遊離が関与していた。また、阻害剤を用いた検討からS1Pによる[Ca^<2+>]iの上昇には、S1P_2、S1P_3受容体が関与していることを明らかにした。 細胞死について、3μMSPC処理により約50%細胞死が誘導されたが3μM S1P処理では細胞死は誘導されなかった。Tg処理においてはcaspase 9の分解が亢進したが、SPC処理では亢進しなかった。 以上の結果から、カルシウムイオン濃度変化が細胞死を直接誘導する可能性は低いこと、そのメカニズムも多様であり個々の薬剤を用いた詳細な検討が必要であると考えられた。 SPCによる細胞死制御について、日本薬学会第129年会において発表を行った。
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