研究概要 |
アスベスト(石綿)曝露を原因とする石綿肺には合併する肺癌や悪性中皮腫の発症が知られている。アスベストは珪酸塩であり,珪酸曝露により自己免疫疾患が引き起こされることから,アスベスト曝露においても腫瘍免疫の減衰を含む免疫系への影響が考えられる。研究代表者の研究室において,(1)ヒトポリクローナルリンパ球MT-2株(MT-2 Org)は,アスベストの一種であるchrysotile-Bによりアポトーシスが誘導されること,(2)しかしながら低濃度での長期培養によりアポトーシスに耐性を示すこと,(3)このようにして樹立したアスベスト誘導アポトーシス抵抗性亜株(MT-2 Rst)は,アスベスト繊維による刺激を受けた後,Src family kinaseを介してIL-10産生が促進され,IL-10のオートクリン的なシグナリングによりSTAT3のリン酸化,Bcl-2発現の亢進を介してアポトーシス抵抗性を獲得することを明らかにしている。本研究では,MT-2 Rstの細胞特性をさらに解析することを目的として行った。その結果,MT-2 RstはMT-2 Orgと比較して細胞増殖および細胞周期に軽度の遅延が生じること,各細胞株の培養上清中のサイトカイン(IL-10,IFN-γ,TNFα,IL-4,IL-6)産生は,IL-10を除きMT-2 Rstでは低下することを示した。また,MT-2 Rstにおける核内のNF-KB発現は有意に低くなった。IL-10およびSTAT-3はNF-κB発現を抑制することが報告されており,MT-2 RstにおけるNF-κB発現はIL-10の産生亢進ならびにSTAT3のリン酸化によって抑制される可能性が考えられる。そしてMT-2 Rstにおいて低下したサイトカイン産生にはIL-10の過剰産生とNF-κBの抑制が関わることが想定される。NF-κBは,c-Junおよびc-Fos等による細胞増殖の調節にも関与しており,本研究においてもMT-2 RstはNF-κB発現低下により細胞の増殖が抑えられ,分化能や機能が亢進する可能性が考えられた。
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