薬物封入ターゲットリポソームは、標的とする分子に結合し内在化することで、または細胞表面において徐々に薬物を放出することによって標的とする細胞に選択的に薬物を送達させるキャリアーとして広く用いられている。またカチオニック脂質を含有するリポソームは、細胞表面と電荷的な相互作用し、膜融合によって遺伝子やsiRNAなどを細胞内に送達できるベクターとして広く用いられている。そこで、薬物封入ターゲットリポソームにカチオニック脂質を含ませることによって、ターゲットリポソームがもつ「送達能」によって標的細胞に薬物を送達させ、カチオニックリポソームがもつ「膜融合能」により、より早く内封する薬物を放出させることにより、高い殺細胞効果を有する新規送達キャリアーの確立を目指した。当該期間において、薬物(ドキソルビシン)封入ターゲットカチオニックリポソームの薬剤感受性の癌細胞および薬剤耐性癌細胞への殺細胞効果について検討を行った。その結果、膜流動性の低い脂質で調製した本リポソームは、感受性の癌細胞には有用な効果を示したが、耐性癌細胞にはほとんど効果を示さなかった。一方、膜流動性の高い脂質で調製したリポソームは、感受性の癌細胞だけでなく、耐性癌細胞にも非常に高い効果を持つことが明らかとなった。さらに水溶性蛍光色素カルセインを封入したリポソームを用いた検討において、膜流動性の低い脂質で調製したリポソームでは、カルセインの細胞内への放出はほとんど認められなかったのに対し、膜流動性の高い脂質で調製したリポソームでは、比較的早い段階で細胞内全体にカルセインが分布することが明らかとなった。以上の結果は本研究の有用性を示す非常に重要な結果であると考える。今後、in vivoでの本リポソーム検討を行う予定である。
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