研究概要 |
緑膿菌は,院内感染の起因菌として社会問題とされており,infection controlを行うことが最も重要視されている菌である。特に,多剤耐性緑膿菌は,その治療に困難を来すことから医療施設での大きな脅威となっている。この緑膿菌の多剤耐性機構として,多剤排出機構が極めて重要な役割を果たしている。本研究の目的は,緑膿菌の多剤排出ポンプMexHI-OpmDの機能を明らかにし,多剤耐性緑膿菌における抗菌薬耐性への寄与度を明らかにすることである。 そこで,MexHI-OpmDの抗菌薬耐性への寄与度を明らかにするために,MexHI-OpmDの単独欠損株および他の多剤排出ポンプ遺伝子(meaAB-oprM、mexCD-oprJ,mexEF-oprN,mexXY)との多重欠損株のシリーズの作製を行った。YM64株(ΔmexAB-oprM,ΔmexCD-oprJ,ΔmexEF-oprN,ΔmexXY)からmexHl-opmDを欠損させたPMX52株がキノロン系抗菌薬や色素系抗菌薬に感受性を示したのに対して,野生株PAO1や多剤排出ポンプ欠損株YM24(ΔmexCD,ΔmexEF-oprN,ΔmexXY),YM63(ΔmexAB-oprM,ΔmexEF-oprN,ΔmexXY),YM62(ΔmexAB-oprM,ΔmexCD-oprJ,ΔmexXY),YM34(ΔmexAB-oprM,ΔmexCD-oprJ,ΔmexEF-oprN)からmexHI-opmDを欠損させた株の抗菌薬感受性はほとんど変化がみられなかった。これは,緑膿菌の主要な多剤排出ポンプであるMexAB-OprMやMexXI-OprMの機能にマスクされているためだと考えられる。これらのことから,野生株PAO1や他の多剤排出ポンプが機能している株においては,MexHI-OpmDの抗菌薬耐性への寄与度は低いことが考えられた。 一方,抗菌薬耐性とは異なる観点から,MexHI-OpmDの機能の解析を行った。その結果,PAO1株やYM64株がpH5.0の酸性環境下においても十分生育できたのに対して,mexHI-opmDを欠損させたPMX52株は全く生育ができなかった。このことから,緑膿菌がpH5.0の酸性環境下で生育するためにMexHI-OpmDが必要であることがわかった。現在,多剤排出ポンプは抗菌薬耐性への関与以外にも別の役割を担っていると考えられている。しかし,その役割のほとんどは明らかにされていない。これらの点からもMexHI-OpmDの本来の役割を明らかすることは重要である。
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