一酸化窒素(NO)は様々な生理機能を持っていることが明らかとなっている。主な役割として神経伝達物質、血圧調節因子、免疫応答分子としての役割がある。生体内でNOはアルギニンを基質として一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase;NOS)により産生される分子である。しかしながら、生体内でのNOの量が過剰、あるいは不足などのNOSによる産生異常により様々な疾患をもたらすことも知られている。今回、申請者はNOの過剰産生による神経因性疼痛に着目し、従来は医師の経験に基づいて診察が行われていた「痛み」の定量化を目指したPET(陽電子画像診断法)プローブの開発を行うこととした。NOSには大きく分けて三種類のイソ酵素(nNOS、eNOS、iNOS)が存在する。神経因性疼痛を引き起こす際には、nNOSが亢進し、過剰のNOを産生することが考えられており、ターゲットとしてnNOSに高い親和性を持つ化合物を開発することとした。NOSに対する高い親和性を持つ化合物として、NOS阻害剤を基本骨格とした設計と合成を行い、酵素阻害活性の高い化合物を探索するための合成を行った。阻害剤にはいくつかの骨格が考えられるが、NOSはアルギニンを基質としてシトルリンとNOを産生する酵素であること、および、最終的な製剤の溶解性に着目し、基質類縁体であるアミノ酸骨格をプローブの基本構造とすることとした設計を行った。アミノ酸側鎖末端部にアミノピリジン環を配置し、脂溶性を高めることで生体内での動態の向上を目指すとともに、高速メチル化反応によりポジトロン放出核である11C核を、クロスカップリング反応を用いた高速メチル化反応により芳香環に導入することが可能な設計とした。本年度は、数種の阻害剤を合成中であり、酵素阻害活性の測定により、良好な活性を持つ化合物に対してプローブ前駆体であるスズ化合物、およびホウ素化合物の合成およびPETプローブ化を来年度以降行う予定である。
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