本年度は、IRBITが破骨細胞分化・未分化のそれぞれの状態で特異的に結合するタンパク質のスクリーニングで得られた候補タンパク質の中から、IRBITと直接結合し、かつカルシウムシグナルに影響を及ぼしそうなタンパク質に注目して解析を行なってきた。 最初の候補タンパク質として、N末側にカルシウム結合部位を有するE3ユビキチンリガーゼに注目し、研究を進めてきた。本研究では、破骨細胞分化誘導時のカルシウム動態制御機構を明らかにすることが目的であるため、まずこのタンパク質がカルシウム結合部位を有するということに注目し、IRBITとの結合、および局在が細胞内カルシウム濃度によって変化するかどうかを調べた。その結果、COS-7細胞などの培養細胞に過剰発現させた実験系では、細胞内カルシウム変化はIRBITとE3リガーゼの結合やそれぞれの局在に大きな影響は及ぼさなかった。しかしながら、破骨細胞と培養細胞過剰発現系ではタンパク質の挙動が違うことも十分に考えられるため、現在はこのE3リガーゼに対する抗体を作製し、破骨細胞内在性タンパク質の詳細な解析を行なっている。また、破骨細胞分化誘導後、経時的にIRBITのタンパク質発現レベルを調べた所、分化状態によってタンパク質レベルはあまり変化しなかった。このことから、E3リガーゼがIRBITの分解に関わっているのではなく、他の標的タンパク質を分解するためにIRBITとE3リガーゼの結合が意味をもつのか、もしくはモノユビキチン化による標的タンパク質の局在の変化が重要な意味をもつのか、という仮説をたて、実験を進めている。このE3リガーゼによるタンパク質の分解が破骨細胞分化誘導時に観察されるカルシウムオシレーションに重要であれば、IP_3産生刺激からカルシウムオシレーションが観察されるまでの時間差を説明することができ、破骨細胞分化の新たな制御機構の発見に繋がると思われる。
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