本研究では、ロイシン・リッチ・リピート(LRR)ドメインを細胞外にもつ細胞膜タンパクの一つで、神経組織特異的に発現する分子として同定されたneuronal LRR(NLRR)ファミリータンパクの生理学的機能および発がんにおける役割を明らかとすることを目的としている。これまでにNLRR1の発現は予後不良の神経芽腫において高く、予後良好の神経芽腫において少ない傾向にあり、NLRR1を培養細胞に過剰発現させると細胞増殖を亢進することが分かっている。 本年度はNLRR1の機能をin vitroの実験系においてさらに解析した。その結果、1)NLRR1は成長因子のうち少なくともEGFおよびIGFによるシグナル伝達を増強すること、2)神経芽腫由来細胞株においてNLRR1の発現抑制により、EGFおよびIGFによるシグナル伝達および細胞増殖効果が抑制されること、3)NLRR1発現は神経芽腫の発生において重要な転写因子であるN-mycにより制御されていること、4)NLRR1によって増強されたEGFシグナル伝達がN-mycの発現をさらに正に制御することが分かった。また本年度は、NLRR1と同じファミリー遺伝子であるNLRR3についても解析を行った。NLRR3は予後良好の神経芽腫において高い発現がみられるが、5)神経系培養細胞の分化を誘導するとNLRR3の発現が増加し、6)NLRR3の過剰発現により分化が誘導され、7)この発現はN-mycにより負に制御されることが分かった。以上のことから、NLRR1およびNLRR3はN-mycによって正および負に制御され、神経芽腫の進展において増殖と分化という異なる機能を果たすファミリー遺伝子であることが明らかとなった。 また、昨年度より引き続いてNLRR1ノックアウトマウスの作製を行い、本年度はそのキメラマウスを得てC57BL/6への戻し交配を開始した。その予備的観察によりこれまでにNLRR1欠損による発生への影響を示すデータが得られてきており、NLRR1が発生においても重要な役割を持つことが予想されることから、今後さらなる詳細な表現型解析を行っていく予定である。
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