赤痢菌は、腸管上皮細胞に侵入・拡散し上皮細胞を破壊することによって出血性下痢を引き起こす。しかしながら、赤痢菌に感染した上皮細胞の破壊に至る詳細な分子メカニズムは明らかではない。 赤痢菌の病原性プラスミドのうち細胞侵入に必須の領域のみを保持する変異株を上皮細胞に感染させた結果、感染細胞においてDNA damageおよび細胞破壊の著しい昂進を認めた。このことから、赤痢菌感染では菌の細胞侵入において誘導されるDNA damageを抑制することによって、感染細胞の著しい破壊を抑制することが示唆された。また、変異株感染細胞において、核のDNA fragmentationやcaspase inhibitor存在下における細胞破壊の抑制が認められなかったことから、DNA damageの誘導にはcaspase cascadeは関与しないと考えられた。 病原性プラスミド上には細胞破壊に対して抑制的に作用する遺伝子が存在すると推測されることから、本研究では当該遺伝子を同定し解析することを目的としている。平成19年度の研究成果は、当該遺伝子を同定するための良い指標となり得る。また、感染細胞が細胞破壊に至るまで過程において、赤痢菌の働きによってどのようなシグナルが活性化され、同時にそのシグナルの活性化がどのように抑制されているのかを解析することが可能となる。これは、赤痢菌の感染メカニズムを理解する上で非常に重要であり、感染制御の基盤的知見となると考えられる。
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