TUBG2欠損マウスは、組織学的にも行動学的にもパーキンソン様症状を呈するユニークな神経変性疾患自然発症マウスである。このTUBG2欠損マウスを解析することで、今まで不明であったパーキンソン症状の発症機構の解明を行った。まず、神経細胞の細胞質でTUBG2蛋白質と複合体を形成している物質を分離同定した。同定できたTUBG2複合体構成蛋白質のうち、今までγ-tubulinの結合蛋白質として報告のなかった蛋白質Aに注目した。蛋白質Aはミトコンドリアの外膜の分裂に必要な蛋白質であり、GTPase活性を持つものである。H20年度はこの蛋白質Aの神経細胞内での機能に注目し、TUBG2欠損により、運動失調に至る過程を明らかにすることを試みた。蛋白質Aの関与するミトコンドリアの分裂に着目し、TUBG2欠損マウスと野生型マウス由来の培養線条体神経細胞及び、ミトコンドリア膜電位依存性蛍光色素を用い、電子伝達系の活性の指標であるミトコンドリア膜ポテンシャルの測定を行ったところ、TUBG2欠損マウスは野生型マウスのそれに比べて有意に値が小さかった。酸化的リン酸化の結果生じるATPの濃度に関してもTUBG2欠損の培養線条体神経細胞で野生型より少なかった。神経細胞は細胞内のATP濃度に依存して、伝達物質の放出を調節するカルシウムチャンネルの活性が変化するが、TUBG2欠損マウス由来の培養神経細胞では、細胞内ATP依存的にカルシウムチャンネルの活性が落ちており、その影響で神経伝達物質の放出が低くなっていることが分かった。運動を調節する線条黒質路は、線条体から黒質へのGABA性回路と黒質から線条体へのドーパミン性回路が存在する。TUBG2欠損マウスでは線条体から黒質へのGABA性の抑制回路が正常に働かず、その結果運動失調を来している、つまり多系統萎縮症様の運動失調モデルであることがわかった。
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