今回の科学研究費補助金の研究は、ポストアンコール期における日本人の活動とアンコール期陶器生産の様相という2つの課題を持っている。 まず前者の研究ではウドン近くの日本人町ポニャールーの研究とアンコール・ワット日本人墨書の研究を行った。ポニャールーの研究ではその推定地近くの2力所で発掘調査を行うと共に、周辺の踏査を行った。No.1地点では従来、日本人が建てたと推定されてきた教会跡地に調査区を設けた。この教会については1950年代の調査時に写真が残されており、そこから推定される規模や構造と今回調査した基礎がほぼ一致することから、場所を特定することができた。さらに教会床面の確認をするとともに建設が近代にはいることを推定した。No.5地点では多くの陶磁器を採集することができ、その内容からこの地がウドンへ至る船舶交通の要衝で港の存在を推定することができた。 陶器生産の研究ではずプノンクレン丘陵の西麓に位置するソサイ窯跡群11号窯の発掘調査を行った。遺構の残りが悪く窯構造については概要が判明したにとどまるが、生産器種や製品の詳細が明らかになった。特に当窯では灰釉陶器の優品が焼成されている。多くはクレン丘陵上で焼成された灰釉陶器と類似した様相を示しており、クレン丘陵上で行われた灰釉陶器優品の焼成が、生産の拡大とともに生産地を広げて丘陵の麓部にまでおりてきて開窯されたと考えることができる。また焼成器種の点では広口壺が多く焼成されている点に注目できる。広口壷は灰釉と無粗釉器と両様があり、作りも精良である。こうした特徴を持つ半面、灰釉陶器・無釉釉器・瓦と種々の器物を同じ窯で焼成しているという点では他の窯と同じ様相も持つとも言える。
|