研究概要 |
クロピドグレル(CLP)は、チクロピジンと共通のチエノピリジン骨格を有する抗血小板剤である。本剤は肝臓で代謝を受けて生成する活性代謝物の-SH基が、血小板上のADP受容体(P2Y12)と不可逆的に結合することでその活性を阻害し持続的に血小板凝集抑制作用を示す。最近、欧米人の肝薬物代謝酵素CYP2C19のintermediate metabolizer(IM), poor metabolizer(PM)で、CLPの活性減弱が報告され、東洋人ではCYP2C19のPMが多いことから注目されている。CLPの肝代謝にはCYP1A2, 2B6, 2C19,3A4が関与するとされるが、活性代謝物の生成に対して各CYP分子種がどの程度寄与するかは不明であったことから、本研究ではその検討を目的とした。 CLPをCYP2C19のextensive metabolizer(EM),PM由来のヒト肝ミクロソーム、及び市販のCYP3A4及び2C19のバキュロ発現系酵素中で、中間代謝物の分解を防ぐためにN-acetylcystein存在下、常法に従ってインキュベーションし、反応液をアセトニトリル除蛋白し遠心分離上清をLC-MS/MS分析に供した(Waters UPLC, Quattro Premier XE、 カラムWaters BEG C18 2.0×100mm40℃、移動相ギ酸-アセトニトリルグラジエント0.2mL/min)。MS/MS測定はMS scan, daughter ion scan, MRMの3種のモードにて行った。 CLPから活性代謝物は2段階の代謝を経て生成するが、CYP3A4とCYP2C19では1段目の主たる代謝物が異なっていた。CYP3A4単独では活性代謝物の生成はCYP2C19に比べ少ないが、CYP2C19にCYP3A4を加えると活性代謝物の生成が増加した。CYP2C19のPMではEMに比べて活性代謝物の生成が1/5から半分程度であった。以上より、CLPの活性代謝物はCYP3A4とCYP2C19が共同的に働いて生成するが、CYP2C19がより重要な働きを行っていると考えられた。以上の他にも多くの構造未知の代謝物の生成が認められており、現在、それらの構造の同定を進めている。
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