研究課題/領域番号 |
19F01046
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
相澤 守 明治大学, 理工学部, 専任教授 (10255713)
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研究分担者 |
LIM POON NIAN 明治大学, 研究知財戦略機構, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-10-11 – 2022-03-31
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キーワード | 水酸アパタイト / バイオセラミックス / 人工骨 / 耐感染性 / 骨形成能 / 術後感染症モデル |
研究実績の概要 |
近年の医療業界では、人工骨や人工関節などのインプラント材が広く普及しているが、それらの使用後の術後感染症(SSI)は重篤な合併症の1つであり、大きな問題となっている。本研究の目的は、優れた骨形成能に加えて、感染症を予防できる「優れた骨形成能と抗菌性を併せ持つ多機能型人工骨の開発」である。より具体的には、人工骨として実績のある水酸アパタイト(HAp)およびリン酸三カルシウム(TCP)をベースとして、その結晶構造に骨形成促進作用をもつケイ素や亜鉛ともに、抗菌性を持つ銀を同時に置換固溶させることにより多機能型人工骨を創製する。得られた材料の物性(結晶相や微細構造など)を調べるとともに、骨芽細胞や実験動物を用いて生体適合性を評価する。抗菌性についても院内感染の原因菌である黄色ブドウ球菌をモデルとして実施する。また、SIIを想定した骨芽細胞と細菌を併用した抗菌性材料の評価技術も確立する。 本研究は、1) 超音波噴霧熱分解法による優れた骨形成能と抗菌性を併せ持つリン酸カルシウム粉体の合成とその機能評価、2) 術後感染症(SII)を想定した細胞と細菌との共培養による評価モデルの構築、3) 構築したモデルによる多機能型人工骨素材の評価からなる。特に、今年度は、1)の課題に注力した。抗菌性元素としては、抗菌スペクトルが広く、耐性菌を発生させない「銀」を、骨形成能の向上には「ケイ素」を選択し、これらをHApに同時添加して「多元素置換型HAp粉体」を合成し、それらの結晶相や格子定数、化学組成などの粉体性状を明らかにした。また、得られた粉体からセラミックスを作製し、その抗菌性を黄色ブドウ球菌および大腸菌を用いてin vitro系で評価した。Lim博士は、2019年9月より本学で研究を開始しているが、既に多くの実験を実施しており、研究の進捗状況は順調である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、優れた骨形成能に加えて、感染症を予防できる「優れた骨形成能と抗菌性を併せ持つ多機能型人工骨の開発」であり、次の3つの課題:1) 超音波噴霧熱分解法による優れた骨形成能と抗菌性を併せ持つリン酸カルシウム粉体の合成とその機能評価、2) 術後感染症(SII)を想定した細胞と細菌との共培養による評価モデルの構築、3) 構築したモデルによる多機能型人工骨素材の評価、を推進する。特に、今年度は、1)の課題に注力した。 抗菌性元素としては、抗菌スペクトルが広く、耐性菌を発生させない「銀」を、骨形成能の向上には「ケイ素」を選択し、超音波噴霧熱分解法によりこれらをHApに同時添加して「多元素置換型HAp粉体」を合成し、それらのキャラクタリゼーションを行なった。より具体的には、粉末X線回折法により結晶相を同定し、格子定数を測定することに銀およびケイ素のHAp内への置換固溶を明らかにした。また、高周波誘導結合プラズマ発光分光法により、合成した粉体の化学組成を決定し、ほぼ目的組成の粉体が合成できていることが分かった。また、得られた粉体から圧粉体を作製し、それらを1200℃で5時間焼成してセラミックスを作製した。作製したセラミックスの主結晶相はアパタイトであった。得られたセラミックスの抗菌性を黄色ブドウ球菌および大腸菌を用いてin vitro系で評価し、銀含有量に依存して抗菌性を示すことを明らかにしている。また、骨形成能を評価するための、実験系である「ラット頭蓋欠損モデル」の作成も手掛けている。 Lim博士は、2019年9月より本学で研究を開始しているが、既に多くの実験を実施しており、2019年度中に今後の研究を大いに発展させるための素地を構築している。研究の進捗状況は「順調である」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、1) 超音波噴霧熱分解法による優れた骨形成能と抗菌性を併せ持つリン酸カルシウム粉体の合成とその機能評価、2) 術後感染症(SII)を想定した細胞と細菌との共培養による評価モデルの構築、3) 構築したモデルによる多機能型人工骨素材の評価からなる。特に、R2年度は、1)を継続するとともに、2)の課題に注力する。 抗菌性元素としては、抗菌スペクトルが広く、耐性菌を発生させない「銀」を選択する。骨形成能の向上には「ケイ素」を使用し、これらをHAp/TCPに同時添加して「多元素置換型HAp/TCP粉体」を合成する。得られた粉体からセラミックスを作製し、その生体適合性や抗菌性をin vitro系で評価し、生体適合性および抗菌性のバランスの良い組成が見いだす。所望の抗菌性や生体適合性が発揮されない場合には、HApへの機能性イオンの「置換固溶」に加えて「表面修飾」を施す可能性がある。試作したHAp/TCPセラミックスをモデル材料として使用し、術後感染症(SII)を想定した細胞と細菌との共培養による評価モデルを構築する。より具体的には、異なる二種類のモデルを構築する。一つは試作したHAp/TCPセラミックスに細菌と細胞を同時に播種する実験系であり、これは手術時に感染が生じるケースを想定している。もう一つのモデルはセラミックスに最初に細菌を播種し、ついで細胞を播種する実験系である。これは材料の滅菌が失敗したために感染が生じるケースを想定している。 これらのモデルが構築でき次第、3)の課題に展開し、実際に創製した「優れた骨形成能と抗菌性を併せ持つ多機能型人工骨」を用いて評価を行なう。また、得られた結果を関連する国際誌に論文として投稿するなど共同研究の成果を発信していく。
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