研究実績の概要 |
ルジャンドル氏との共同研究は、国際的な比較研究として開始された。同氏は、東洋の身体技法(太極拳、気功)に対してフィールドワークを重ね、現場の身体技法および語彙を哲学的に分析するという独創的なアプローチによって、身体論的哲学の再構築を目指した。常に日本・中国・フランスなど複数の視点を比較させる研究手法をとり、そこで生じた疑問に対して、西平が日本の伝統思想の視点から意見を述べるという仕方で、研究は進んだ。 同氏の仕事は、「腕力(power)」とは異なる「ちから(energy)」の原理に着目する。その視点から、意思・知覚・運動といった基礎的哲学概念の再解釈が試みられた。国際誌『Sport, Ethics and Philosophy』に掲載された論考は、フランス身体論に国際的・先端的な新たなインパクトを与えるものになると思われる。また、同時に並行して進められた「銭湯の身体技法」をめぐる考察は、身体哲学に健康・ケアといったトピックを新しく付与するもので、日本でフィールドワークを開始したことによる萌芽的かつ優れた研究であり、今後の発展が大いに期待される。総じて、東アジアの身体技法を踏まえた理論構築が期待される。 また、同氏との共同研究によって、総合的な身体研究に関する国際ネットワークの基盤が形成された。スポーツ、武道、芸能、工芸など、身体技法に関わる総合的な研究構築のための下地である。とりわけ、京都大学―パリ大学(旧パリ第V大学)を中心とする研究者のコミュニケーションが発展し、その成果として、国際共著本『Experiences of the Living Body』の編集作業が完了した(フランスの出版社L’Harmattanより2021年4月刊行予定)。本共同研究によって、国内外の研究者・実践者のネットワークを広がり、理論面でも実践面でも充実した研究基盤を築くことができた。
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