微小熱機関における熱から仕事への変換を深く理解することにより、熱力学における非平衡効果や量子効果の普遍的性質を明らかにすることが昨今の物理学における重要な課題の一つになっている。この方向性のもとに、我々は微小熱機関の近準静的サイクル(完全に準静的ではないが準静的に近いパラメーター変化をともなうサイクル)における熱効率と仕事率との関係、また量子コヒーレンスの効果を厳密に議論した。 近準静的過程においては、断熱量子理論を使えるので分布関数をサイクル時間の逆ベキで展開することにより厳密に、系の定常分布の展開を行った。これにより仕事とエントロピー生成に対する厳密な表式を導出し、仕事率が熱効率と熱力学長という量で上からおさえられることを示した。熱力学長は、経路が決まれば系に対して一意的に決定される量で、完全に幾何学的量である。これは、非平衡熱力学的な量を幾何学的な量で表したという意味で非常に興味深い関係式である。 また、量子的コヒーレンスの効果に関しても厳密な議論も行った。その結果、量子コヒーレンスは常に熱効率を減じる方向にはたらくことを示した。 これら2つの結果は、熱と仕事の間に成立する厳密かつ普遍的な関係であるという意味で意義深い。熱力学長を測ることで、熱機関としての性能を特徴付けらることも意味しており、今後具体的な系で調べられていくと期待される。
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