研究課題
鉄系超伝導体は2008年の発見以来、精力的な研究が行われてきた。一方、同時期に、Bi2Se3等の一連の物質に対して、トポロジカル絶縁体の実証が光電子分光によってなされた。現在、超伝導体とトポロジカル物質は共に物性研究の主要分野である。我々は、FeSe超伝導体において、トポロジカルに保護された表面状態に超伝導ギャップが生じること、さらには、その電子状態がスピン偏極していることを突き止め、この分野を先導してきた。マヨラナ粒子は超伝導ギャップ内ギャップレス励起状態としての発現が理論予想され、その観察には極微小エネルギースケールの精密光電子分光実験が求められる。また、トポロジカル超伝導候補物質の超伝導転移温度は概して低く、極低温測定を必要とする。これらの制約をクリアする最新鋭装置を駆使してゴールを目指している。光電子測定には結晶の清浄表面が必要となるが、一般的3次元固体の劈開表面は粗く、運動量・エネルギー分解能共に悪化させる。集光ビームで劈開後に限定される微小清浄表面をピンポイント測定する計画を実施している。マヨラナ粒子は外部磁場印可で時間反転対称性の破れた磁束下で発生することが予想されていたが、近年、鉄不純物をドープすることでもその生成が期待されている。我々は高精度のARPES測定を用いて、不純物を印可してもなお維持されるトポロジカルディラック表面状態を観察することに成功した。また、トポロジカル超伝導候補物質であるTaSe3の詳細な電子構造の観測にも成功している。今後はこれらの研究をさらに発展させるつもりである。
2: おおむね順調に進展している
近年、低次元性または非自明なトポロジーのいずれかを特徴とする量子材料にたいし多くの研究がなされている。 その中我々は、層状チェーン構造を持つ擬一次元セミメタルとして知られているTaSe3に着目し研究を行なった。その超伝導特性と電荷密度波(CDW)の関係について、広く議論されてきたが、最近の第一原理計算では、TaSe3が強いトポロジカル絶縁体(TI)相に属し、さらに、一軸ひずみを適用することにより、強いTI、弱いTI、Dirac半金属、および通常の絶縁体相間でトポロジー相転移することが予測されている。TaSe3は、超伝導とトポロジカル相間の相互作用を研究する上で良好なシステムを提供するだけでなく、ひずみで引き起こされるトポロジカル相転移を研究するための理想的な舞台を提供する。角度分解光電子分光(ARPES)によるTaSe3の電子構造の直接観察は、その新しいトポロジカル超伝導特性を解明する強力な研究手法である。我々はレーザーベースのスピン分解ARPES測定をも実施し、TaSe3の電子構造と可能なトポロジカル表面状態(TSS)の最初の明確な観測を報告した。我々の結果は、擬一次元TaSe3で発現する強いTI相に由来すたトポロジカル超伝導の可能性を提示した点でよい進捗状況にある。
理論設計に基づくトポロジカル超伝導ヘテロ構造の製作及び検証を行う。この研究では、既存の超伝導体・トポロジカル絶縁体・強磁性体のハイブリッド構造を製作し、集光レーザービームを用いてピンポイント観察を行い、バルクエッジ対応で出現するマヨラナ粒子の直接観察を試みる。集光レーザービームによる局所測定を実施する上で威力を発揮する長焦点顕微鏡を光電子装置に導入し、試料表面をモニターしながらの走査型測定を可能にする。さらなる取り組みとして、近年発達するマテリアルズ・インフォマティクスに基づき、既存の電子構造データベースを最大限に活用することで、新奇トポロジカル超伝導物質の開拓及び物性研究にも従事する予定である。トポロジカル物性研究は幅広い分野から注目を集めており、特に量子コンピュータを通じて実社会への恩恵が期待されるマヨラナ粒子の創発は社会的インパクトが大きく、トポロジカル物性分野を主導する一大テーマだと言える。理論計算で予想される固体内素励起は、電子が持つ運動量とエネルギーの分散関係として表現させるため、物質の電子構造を直接観察し、その一対一対応を実験的に検証する必要がある。ARPESを用いた直接バンド観察からマヨラナ粒子物性研究に貢献し、集大成として日本物理学会にて成果報告を行う。
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