研究課題/領域番号 |
19F19036
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
山口 茂弘 名古屋大学, 物質科学国際研究センター(WPI), 教授 (60260618)
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研究分担者 |
CHOI HEEKYOUNG 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | 超分子化学 / 分子集合体 / 超分子ポリマー / 有機ホウ素π電子系 / ルイス酸 / 種重合 |
研究実績の概要 |
本研究では,らせん状π電子系超分子ポリマーの機能の追求を目的に,幅広い濃度範囲での種重合の実現に取り組んだ.本研究で着目した平面固定トリフェニルボランは,高い化学的,熱的安定性を示し,その平面性の高さからπスタッキングによる新たな機能発現を期待される.また,種重合法は,超分子ポリマーの重合度や分子配向などの構造要素を速度論的に制御できるため,均質性に由来した光・電子機能を追求するのに有効である.種重合の実現に向けて,自発的な会合を抑制することが重要となる.これまで,汎用分子骨格であるアミノ酸ジアミドの分子内・分子間水素結合を利用することで種重合が達成されているが,高濃度条件下では超分子ポリマー化が自発的に進行してしまうことが問題であった.これに対し,申請者らは,ホウ素のルイス酸性を利用する塩基との錯形成により,高濃度条件下でも種重合を実現できると考えた.そこで,アミノ酸ジアミド基を導入した平面固定トリフェニルボラン誘導体を設計,合成し,自己集合特性を評価した.種々のスペクトル測定,および顕微鏡観察により,低極性溶媒中において平面固定トリフェニルボラン誘導体はらせん状の一次元集合体を形成することがわかった.また,塩基添加前後における,平面固定トリフェニルボランの分子構造,錯形成特性,および集合特性について熱力学的,速度論的に調べ,超分子重合メカニズムを明らかにした.さらに,平面固定トリフェニルボラン誘導体と塩基の濃度を変えて種重合に取り組み,ホウ素と塩基との分子間配位結合を利用することで,高濃度条件下における種重合を達成した.種重合法の確立は機能性材料の開発において重要な研究分野であり,典型元素の特性を活かすことで,この分野の進歩につながると期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アミノ酸ジアミド基とキラルな分岐アルキル鎖を導入した平面固定トリフェニルボラン誘導体を合成し,低極性溶媒中における自己集合特性の評価と種重合に取り組んだ.温度や濃度を変えて吸収スペクトルを測定したところ,低温,高濃度条件下では,単分散状態と比較して,長波長領域に新たな吸収帯が確認され,基底状態において平面固定トリフェニルボラン部位はJ会合体の会合様式で配列していると考えられる.円偏光二色性(CD)スペクトルをアミノ酸ジアミド部位と分岐アルキル鎖の不斉により分子配向が制御されることを見出した.また,フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)によりジアミド基同士の分子間水素の形成を確認した.原子間力顕微鏡(AFM)と透過型電子顕微鏡(TEM)による観察の結果,会合状態では螺旋状の一次元集合体を形成していることがわかった.続いて,低濃度条件下,超分子重合の初期過程を追跡したところ,アミノ酸ジアミド部位の分子内水素結合により折りたたまれ,自己集合が一時的に抑制されることを確認した.この誘導期に種を添加すると直ちに超分子重合が開始されたため,折りたたみ構造は自発的な会合を抑制する準安定状態として働くことがわかった.一方,高濃度条件下では自発的な会合が加速され,誘導期が短くなった.そこで,ピリジンの添加に伴うホウ素との錯形成,および超分子重合の初期過程について評価した.吸収スペクトル測定の結果,冷却過程においてホウ素はピリジンと錯形成し,時間の経過とともに会合状態へ転移する様子が確認された.また,高濃度条件下において長い誘導期が確認され,種の添加により超分子重合を開始できることを明らかにした.ジアミド骨格の分子内水素結合に加え,ホウ素と塩基との分子間配位結合を組み合わせることで,幅広い濃度範囲で種重合を達成できた. 以上の成果から,おおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,平面固定トリフェニルボラン誘導体を基軸とするらせん状π電子系超分子ポリマーの機能開拓に向けて,2019年度に得られた研究成果を基に研究を推し進める.具体的には,集合体の構造と特性に及ぼすアミノ酸ジアミドと分岐アルキル側鎖の影響について評価を進め,長波長領域に吸光度の高い吸収帯と強いコットン効果を示す超分子ポリマーの創出に向けた最適な分子構造を明らかにする.アミノ酸ジアミド部位のキラリティー(L体,D体)とアルキル側鎖のキラリティー(R体,S体)の組み合わせを変えた誘導体と,異なるアミノ酸残基からなるジアミド骨格を導入した誘導体を合成する.低極性溶媒中にて超分子ポリマーを調製し,吸収スペクトル,CDスペクトル測定により,超分子ポリマー内部における平面固定トリフェニルボラン部位の配向様式について知見を得る. アミノ酸ジアミド部位と分岐アルキル側鎖を最適化した後,有機ホウ素π電子系集合体の光特性について理解を深めるため,溶液中だけでなく固体状態における評価を進める.具体的には,ホウ素と塩基との分子間配位結合を利用する種重合により,構造要素が制御された超分子ポリマーの高濃度溶液を調製し,薄膜サンプルを作成する.種重合において,添加する種の量を変えることで長さの異なる超分子ポリマーを調製できる.超分子ポリマーの長さは階層的な集積過程に影響する重要な構造要素であると考えられる.そこで,長さの異なる超分子ポリマーの溶液から作成した薄膜サンプルをAFMにより観察し,表面構造に及ぼす超分子ポリマーの長さの影響を調べる.また,円偏光発光特性やキャリア輸送特性を評価することにより,有機ホウ素π電子系集合体の機能を開拓すると同時に,本重合法の意義と効果を明らかにする.
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