研究課題
温度差を電気に直接変換する熱電変換は、近年、エネルギーハーベスティング技術の一つとして注目されている。中でも電気伝導性酸化物は、熱的・化学的耐久性の高さから熱電材料候補として期待されているが、既存の金属カルコゲナイドと比較して熱伝導率が高く、性能が低いという問題がある。本研究では、酸化物熱電材料であるSrTiO3-SrNbO3系全域固溶体の熱輸送特性を明らかにし、SrTiO3および他の類似システムにおける熱伝導率低減の可能性を探っている。これまでに、SrTiO3-SrNbO3固溶体およびSrTiO3-LaTiO3固溶体の電子輸送特性と熱輸送特性を詳細に計測した。SrTiO3-SrNbO3系では、電子熱伝導率がWiedemann-Franz(WF)則に従わないことが分かった。SrTiO3のTiサイトをNb置換すると電子キャリア濃度が増加し、導電率がほぼ線形に増加するため、古典的なWF則を当てはめると熱伝導率が増大してしまうため、熱電変換性能指数が高められないとされていたが、その描像を覆す結果である。現在、国際共同研究(韓国・KAIST、韓国・成均館大学校)によって理論的な解析を行っている。予備的な結果については、2019 JSAP Fall Meeting、2019 MRS Fall Meeting、The 3rd Workshop on Functional Materials Scienceなどの学会で発表した。また、SrTiO3-LaTiO3系では、SrTiO3-SrNbO3系とは熱伝導率の組成依存性が全く異なるという結果を得た。SrTiO3-SrNbO3-LaTiO3で熱伝導率の結果をまとめることとし、先に薄膜成長-結晶格子-電子輸送特性についてのみ論文(J. Appl. Phys.)にした。2020年度にはSrTiO3-SrNbO3-LaTiO3系固溶体のユニークな熱伝導率について、国際ジャーナルで発表する。
2: おおむね順調に進展している
1年目の研究目標は、SrTiO3-SrNbO3系全域固溶体の熱伝導率を明らかにすることであった。現在までに、SrTiO3-SrNbO3系固溶体に加え、SrTiO3-LaTiO3系固溶体についても熱伝導率を計測し、両者に大きな違いがあることを見出した。SrTiO3-LaTiO3系固溶体については、熱伝導率以外の部分(薄膜成長、結晶格子、電気特性)については論文にまとめてJ. Appl. Phys.誌で発表した。その他、国際共同研究で行った超格子の研究がPhys. Rev. Lett.誌に掲載された。以上より、本研究は概ね順調に進捗しており、一部計画を上回っていると判断した。
[1] SrTiO3-SrNbO3固溶体の熱伝導率をまとめ、論文発表する。この研究では、Wiedemann-Franz (WF)則に従わない電子熱伝導率を見出した。SrTiO3-LaTiO3固溶体の熱伝導率を計測したところ、挙動はSrTiO3-SrNbO3とは全く異なることが分かっている。こうした実験結果と理論計算結果を組み合わせて、論文発表する。[2] Sr(Ti, Nb)O3超格子の面内熱伝導率の計測(米国MIT共同研究)。2018年 Nature Commun.誌で発表した熱電変換出力因子に加え、面内の熱伝導率を計測することで真の熱電変換性能指数を明らかにする。具体的には、周波数領域サーモリフレクタンス(FDTR)法を使用して超格子の面内熱伝導率を測定する。結果は、2020 MRS Fall Meetingや応用物理学会で発表するとともに、国際ジャーナルに投稿する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 8件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Physical Review Letters
巻: 124 ページ: 026401
10.1103/PhysRevLett.124.026401
Applied Physics Ltters
巻: - ページ: -
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Journal of Applied Physics
巻: 126 ページ: 075104-075104
10.1063/1.5100993
http://functfilm.es.hokudai.ac.jp/