負熱膨張材料は、光通信や半導体製造装置などの構造材で、精密な位置決めをさまたげる熱膨張を補償(キャンセル)できる。還元処理した層状ルテニウム酸化物 Ca2RuO4の焼結体は大きな負熱膨張を示すが、そのメカニズムはこれまで不明であった。そこで本研究ではCa2RuO4 の結晶構造変化を、電子線回折や放射光X線解析、第一原理計算などの方法で調べた。 詳細な解析の結果、低温では、4価のルテニウムが持つd電子が、横方向に張り出したdxy電子軌道を優先的に占有するために、ルテニウムを囲む酸素8面体が縦に収縮しており、さらにそれらが互いに傾斜して、縦方向(c軸方向)の収縮と横方向(b軸方向)の伸張が生じていることがわかった。昇温すると、この結晶構造の歪みが徐々に解消するため、c軸方向に伸長し、b軸方向に収縮する異方的な熱膨張が起こる。材料組織を形成する針状の結晶粒は、長手方向がb軸に対応しているため、昇温に伴って太鼓型に変形し、それによって結晶粒間の空隙が減少するために、全体として体積が大きく収縮することが明らかになった。 また、合成直後の材料は格子間位置に過剰な酸素を取り込んでおり、これが低温での選択的な電子軌道の占有と酸素8面体の傾斜を阻害していることも明らかになった。これは、この過剰な酸素を還元処理で取り除いてはじめて負熱膨張が生じるということであり、還元処理が負熱膨張に果たす役割を確かめることができた。 この成果はChemistry of Materials誌に掲載され、Supplementary Coverを飾った。
|