研究課題/領域番号 |
19F19071
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
馬場 俊彦 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (50202271)
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研究分担者 |
BALCYTIS ARMANDAS 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | ナノレーザ / フォトニック結晶 / GaInAsP / バイオセンシング |
研究実績の概要 |
本年度はGaInAsP半導体フォトニック結晶ナノレーザバイオセンサの超高感度の原理を解明するため,新しい測定系を構築した.従来は顕微PL光学系に波長980nmの励起光を導入し,ナノレーザからの波長1550nm付近の発光をスペクトル解析するものであるが,これに可視光域の蛍光観測のための励起光源と高感度CCDカメラを取り付けた.従来の測定は近赤外であったが,バイオマーカータンパク質の抗原抗体反応が起こり,それをナノレーザで検出する瞬間を,蛍光バイオマーカーを使って可視域で捉え,ダブルチェックしようという目的である.実際,光学系は完成し,蛍光マーカー付きのストレプトアビジンを利用して,近赤外と可視の両方で抗原抗体反応が捉えられることを確認した.ただし可視域ではCCDカメラの感度が高すぎる一方で,励起光によるバックグラウンドが除去しきれず,pMオーダーの低濃度の蛍光が識別できるレベルに到達していない.ナノレーザが主に目標とする超高感度領域はfMオーダーであり,バックグラウンド抑制のために,光学系をさらに改良する必要がある. 一方でナノレーザの超高感度の原理がイオン感応性であることは,ナノレーザを組み込んだ電気化学回路の実験で明らかになりつつある.ここではスクリーンプリントセルという市販の電気化学回路にナノレーザを搭載してバイアス電圧を印加し,ナノレーザの表面反応を制御するもので,実際,これにより,抗原抗体反応のシグナルを増強できることが明らかになった.これまで試してきたのは,主に前立腺がんマーカーPSAであるが,今後は異なる等電点をもつ他のバイオマーカーにも適用し,同様の特性が得られるかを検討する.さらに異なる等電点のマーカーが混在する試料から,特定のマーカーを選択的に検出するための条件を見出す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ナノレーザバイオセンサの原理がイオン感応性にもとづくことが,電気化学回路への組み込みにより,さらに明らかになった.これは本研究の重要な成果である.本研究ではさらにその原理に確信を与え,さらに局所的な振る舞いを探求するために,新しい顕微鏡システムを構築した.これについては,単一分子吸着などでの超微弱の発光を検出するために,励起光によるバックグラウンドを徹底的に抑制する必要があり,これはまだ研究途上である.これが実現できれば,ナノレーザの振る舞いと分子吸着や抗原抗体反応の振る舞いを直接的に関連付けられる証拠となるため,さらに推進したい.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる次年度は,まずとにかく励起光の影響によるバックグラウンドを抑制し,pMからfMオーダーのバックグラウンドの抑制を目指す.これがかのうになれば,ナノレーザでの波長シフトや発光強度の増減が起こった瞬間の物理化学現象が何であるかをある程度は可視化し,それが抗原抗体反応との明確な対応が取れれば,これまでの超高感度センシングの確証を得たことになる.ただしこれまでの研究では,多数の集積されたナノレーザが,反応後にほとんど同様の振る舞いを示すことがわかっている.極微小量のタンパク質がナノレーザ基板に吸着したとき,それが偶然にナノレーザ周辺に吸着する確率は非常に低く,あるいはその状態に至るまでに長い時間を要するというのが,同様のセンシングに関わる分野の一般的な認識である.しかし実際は,溶液を導入してからナノレーザが反応するまでの時間は数秒と速いことが今までの実験で繰り返し観測されている.そのため,ナノレーザの反応以前に,ナノレーザ基板全体の帯電が分子の吸着によって変化し,それがナノレーザの電気化学状態に影響を与えて,波長がシフトしたということも十分に考えられる.これらを解明することはナノレーザセンサの高性能化,高安定化に結び付くだけでなく,電気化学的な手法で半導体レーザを外部制御できるという新しい概念の創出につながるものと期待している.
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