植物の細胞壁に含まれる糖鎖を介した細胞間シグナリングは、植物の発生や生長に極めて重要と想定されてきたにも関わらず、これまで全く未開拓な状況であると言える。そこで、当研究室で新たに発見された、植物の受精を促進する生理活性糖であるAMORに着眼し、AMORが発見された植物であるトレニアにおいて分子生物学的なアプローチを駆使して、AMORの生合成や受容体に関する研究を展開することを目指した。
AMORは化学合成した末端の2糖だけでも活性をもつ。しかし天然のAMOR(アラビノガラクタンタンパク質;AGP)については不明な点が多い。そこで、AMORを担うAGPや糖鎖修飾酵素の候補、そしてこれに加え花粉管で働くレクチンドメインをもつ受容体様キナーゼなど受容体遺伝子の候補を、ゲノムデータおよび雌しべ組織を用いたトランスクリプトームデータから抽出した。抽出した遺伝子群についてゲノム編集を進め、ノックアウトラインを得ることに成功した。また、in situ hybridization法により遺伝子発現パターンを解析した。これらは植物糖鎖シグナリングの理解に対して重要な成果であり、引き続き共同研究として解析を進めていく。
またトレニアにおけるゲノム編集研究の基盤として、安定的なゲノム編集の方法の確立や、トレニアゲノムプロジェクトの取りまとめ作業も進めた。これらを基盤に、トレニアの花粉管誘導に関わる複数の遺伝子候補のノックアウトラインも確立した。トレニアを用いた植物生殖研究を共同研究として続けていく基盤となる。
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