大きく2つの研究を実施した。はじめに,琉球列島におけるミナミクロダイAcanthopagrus siviculusのミトコンドリアDNA調節領域の塩基配列から分子生態学的には,北琉球(奄美大島個体群),中琉球(沖縄島個体群)および南琉球(先島諸島個体群)の独立した3集団を明らかにした。つまり3集団間は,成魚だけでなく稚仔魚による海流を使った回遊が制限されていることを示唆している。本種は,漁業資源として利用されているため,3集団ごとに適正な資源管理の策定が必要である。 一方,本邦では八重山諸島だけに分布するナンヨウチヌA. pacificusについて西表島の白浜から船浦地域および仲間川地域(天然記念物地区)をフィリピンのルソン島を含めてミトコンドリアDNA調節領域の塩基配列から分子生態学的解析を実施した。その結果,島内で独立した2集団の存在を明らかにした。つまり沿岸伝いに遺伝子流動を抑制する地理的障壁の存在,または稚仔魚期の分散が小さくself recruitmentしていることが考えられた。仲間川地域の上流と下流における耳石微量元素分析によって回遊していることを示した。さらに地域間の耳石微量元素分析を試みたが,コロナ禍の影響によるロックダウンによって採用期間内に結果を得ることができなかった。しかしながら,世界自然遺産に指定された西表島におけるナンヨウチヌの生態が明らかになったことは大きな成果である。 コロナ禍によって度々の緊急事態宣言やまん延防止期間にも関わらず,採用期間内に標本収集やデータ分析,投稿用原稿2報の英文校閲完了までに至ったことは特記すべき成果である。
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