研究課題/領域番号 |
19F19097
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中尾 亮 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (50633955)
|
研究分担者 |
MOUSTAFA MOHAMED 北海道大学, 獣医学研究院, 外国人特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
|
キーワード | マダニ / 齧歯類 / ヒグマ / ツキノワグマ / 細菌叢 |
研究実績の概要 |
マダニは体内に病原体を含む多様な微生物群を保有し、しばしば人や動物の感染症を媒介する。しかしながら、マダニがどのようにして多様な微生物群を獲得し、さらに病原体がマダニ集団内でどのように維持・伝播されているのかはほとんど理解されていない。自然界においてマダニは野生動物を主な吸血源として生活することから、野生動物はマダニ媒介性病原体の維持・伝播に需要な役割をもつことが考えられる。そこで、本研究では野生動物がもつ微生物叢とマダニの微生物叢を比較することで、1)既知マダニ媒介性病原体のマダニ集団への伝播ルートの解明、2)これまで認知されていない新規マダニ媒介性病原体候補の検出、および3)非病原体と病原体との相互作用解析によりマダニ体内での病原体維持機構の解明を目的とする。 今年度は北海道内の4地点で3種の野生齧歯類(アカネズミ、ヒメネズミ、エゾヤチネズミ)合計184個体を、シャーマントラップを用いて捕獲し、剖検により脾臓を採取するとともに、動物体表からマダニを回収した。また、本州の6地点において捕獲されたツキノワグマ95個体、北海道の2地点で捕獲されたヒグマを45個体の血液検体と体表に付着するマダニを得た。脾臓、血液、およびマダニからそれぞれDNAを抽出した。ツキノワグマ血液由来DNAを用いて、細菌16SリボソーマルRNA遺伝子(rDNA)のV3-4領域をPCR増幅した。PCR産物をIllumina MiSeqにより解読し、得られた配列を元にQiime2を用いて細菌の系統分類を行なった。解析の結果、Anaplasma属やBorrelia属などのマダニ媒介性細菌群が多検体から検出された。また、71個体のツキノワグマ(74.7%)からWolbachia属細菌の配列が得られ、データベースとの照合から、糸状虫の共生菌であることが推察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生動物のサンプリングに関しては、共同研究者の協力によりスムーズに遂行でき、当初予想以上に集まった。細菌叢の解析についてはツキノワグマ血液を材料として先行して進めたが、Anaplasma属やBorrelia属などの既知のマダニ媒介性細菌も検出されたことから、野生動物とマダニとの関わりを解析するための手法として問題ないことが確認できた。一方で、原虫の検出を目的とした18S rDNAのアンプリコン解析の予備試験では、宿主遺伝子の増幅が問題となり、原虫遺伝子の検出には至らなかった。このことから、次年度に新たに宿主18S rDNAの増幅抑制系の構築が必要となった。以上のことから、研究は当初の予定通り、おおむね順調に進んでいると自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
昨年度収集した野生動物およびマダニ検体を用いて、アンプリコン解析を実施する。細菌叢に関しては、昨年度と同様の手法を用いて解析を進める。原生生物叢に関しては、昨年度に実施した予備試験の結果、哺乳類の18S rDNAを増幅を抑制するブロッキングPCR系の構築に難航したため、人工核酸(BNA等)を用いた選択的nested PCR系を新たに開発し、宿主18S rDNAの増幅を抑える原生生物叢解析法の開発を試みる。また、昨年度の解析結果から、多くのマダニでCoxiella共生菌が検出されたことから、人工核酸(BNA等)を用いたブロッキングPCR系を構築する。マダニと野生動物の細菌叢・原生生物叢の系統分類結果を用いて、相関解析およびネットワーク解析により、野生動物とマダニの間での伝播が予想される組み合わせを抽出する。また、マダニにおいては細菌叢・原生生物叢と地理的由来ならびにマダニ種との関係を解析する。マダニと微生物種の系統樹のトポロジーを比較することで、微生物のマダニ集団内での維持様式を解析する。
|