昨年度の野外サンプリングで採集された野生齧歯類184個体が保有する病原体叢について重点的に解析を進めた。アカネズミ、ヒメネズミ、エゾヤチネズミの脾臓からDNAを抽出し、細菌16SリボソーマルRNA遺伝子(rDNA)のV3-4領域をPCR増幅した。PCR産物をIllumina MiSeqにより解読し、得られた配列に対しQiime2を用いて細菌の系統分類を行なった。解析の結果、それぞれの動物種が固有の細菌叢を有することが分かった。検出された細菌の属レベルでの分類では、Bartonellaが全体の57.1%を占め、過半数(59.8%)の個体がBartonellaに感染していることが明らかとなった。加えて、BorreliaやEhrlichiaなどの既知マダニ媒介性病原体や、これまでほとんど報告のないNeoehrlichiaおよびDiplorickettsia等が検出された。興味深いことに、サンプリング地点を都市化地区と自然地区に分けて比較を行ったところ、都市化地区の個体ではα多様性が自然地区の個体に比べて有意に低く、マダニ媒介性病原体の保有も確認できなかった。一方で、ノミにより伝播されると考えられるBartonellaや野外環境より獲得すると考えられるMycoplasmaの保有に関しては、地区間の差は検出されなかった。このことは、環境条件により、マダニ媒介性病原体への暴露リスクが変化することを示唆しており、感染症リスク評価のための重要な知見が得られた。都市化によりもたらされる病原体叢の変化は、マダニ密度の低下によるものか、あるいはマダニ媒介性病原体の同地域からの浄化によるものかは本研究だけでは不明であり、今後地区間でのマダニ分布調査等により、その要因を明らかにする必要がある。
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