研究課題/領域番号 |
19F19103
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松岡 信 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (00270992)
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研究分担者 |
WANG FANMIAO 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | イネ / QTL / GWAS / ゲノム解析 / 収量 / 環境変動 |
研究実績の概要 |
窒素(N)は作物に取って必須な元素であり、作物収量を向上させるために肥料として膨大量が毎年土壌中に投入され続けている。しかし近年、環境保持の観点から、N低投与でも収量が維持出来る新品種開発が希求されている。本研究はこの課題に答えるために、N肥料の投与に呼応して収量増減を制御する遺伝子についてゲノムワイド相関解析(GWAS)により単離及び解析し、機能について研究を行い、N量変動がどのような機構で収量に影響を与えるかについて分子生物学的、分子遺伝学的レベルでの解明を目指す。GWASは、現在所属する研究室において日本品種を材料にして短時間で効率的に農業形質遺伝子を単離する手法が確立されたので、本手法を利用し進めた。研究初年度の2019年は、穂構造を決定づける個別の形質について、既にその有効性が到穂日数で確認されているG x E GWA解析を行い、本手法がより複雑な要因で構成される穂構造でも通用するかの確認を試みた。その結果、出穂に関わる複数の遺伝子がN量により収量を変動させる予備的な観察は得られたが、直接的に関わる遺伝子(座)の発見には至らなかった。 それに平行して、穂形成の初期段階における遺伝子発現を網羅的に解析し、その発現量と穂構造との相関性を調べることで、穂形成に関わる遺伝因子の解析や同定も試みた。その結果、コシヒカリとハバタキのBILsを用いて、穂構造を構成する諸因子を用いたQTL解析(形質QTL)と、第1枝梗分化期の出穂前穂から単離したRNAを用いたRNAseqによる全遺伝子の発現量との相関解析により、穂形成に関わることが期待される幾つかの候補遺伝子の推定に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
集団構造化が出来るだけ少なくかつ変異を多く含む系統を120品種選抜し、3段階のN施肥を施した水田圃場において収量に関連する形質について計測を行った。これらを形質値として個別のGWASを行うと共に、N量に呼応する座に付いてG x E_GWASを行った。G x E GWASは、これまでヒトを初めとし複数の生物種において幾つかの手法が提案されたが、作物での成功例は少なく遺伝子の単離には至っていない。19年度はG x E_GWASに合わせて穂形成の初期段階における遺伝子発現を網羅的に解析し、その発現量と穂構造との相関性を調べることで、穂形成に関わる遺伝因子の解析や同定も平行して試みた。 上述した3段階のN施肥水田圃場で栽培した120系統の到穂日数、稈長、一株穂数等について、通常の、およびG x E GWASを行った。その結果、到穂日数については効果が予想されていたHD6のN依存的開花遅延効果が確認され、本研究手法でG x E GWASが行えることが確認できた。そこで収量関連形質についても、同様の方法でG x E GWA解析を行った結果、主に出穂関連遺伝子が関連する結果(具体的には出穂を遅延させることで収量を増加させる)が得られた。これは本来の目的とは逸脱した結果で(本研究の本来の目的は、窒素に直接的に応答して収量の多寡を調節する遺伝子の単離・同定で、出穂を遅延させることで間接的に収量に影響を与える遺伝子ではない)、改めてパネルを組み直してG x E GWASを行うことにした。 一方、イネの穂構造検定に関わるQTL単離の新手法として穂形成の初期に発現する遺伝子の発現得量を形質として捉えた発現QTL解析についてG x E GWA解析に平行して進めた。その結、形質QTLとRNAseqによる全遺伝子の発現量との相関解析により、穂形成に関わることが期待される幾つかの候補遺伝子の推定に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の結果を受けて、以下の二本立てて研究を推進させる。 1.G x E_GWAS研究の推進 19年度の結果は、収量決定効果の高い遺伝子座として、到穂日数に関連する遺伝子の関与が強調された。この原因として用いた系統集団の選抜に原因がある可能性が考えられたので、20年度は改めて集団を選び直して同様の解析を行う。さらに、計測する形質についても「穂軸長、穂長、一穂当たりの一次枝梗数、一穂当たりの二次枝梗数、一穂当たりの着粒数、一穂当たりの穎花数」といった、収量に関わる様々な因子について詳細に解析を行う。これらの計測値を用いて、個別のGWASを行うと共に、G x E_GWASを行い、Nに応答する遺伝子の洗い出しを改めて試みる。 2.発現QTL解析 複数遺伝子座によって規定される穂の収量性を制御する因子の同定には、QTL解析が必要不可欠だが、QTL解析から遺伝子同定までには長い時間と多大な労力が必要で、複雑な穂構造を決定する分子ネットワークの完全理解を妨げている。そこで本研究は、穂の複雑な構造を多数のパラメーターに分解しそれらを一括して取り扱うことにより、これまでのQTL解析では見えてこなかった穂構造の発生メカニズムに迫る取り組みとして、発現QTLを試みる。予備的結果として、染色体1,6,7,8番に穂構造を制御する複数の座を見出した。そこで20年度は、これらの座における候補領域において、形質のRod値曲線と相似の曲線を描く発現QTLを見つけ出すことで、その形質を制御する原因遺伝子を推定するという全く新しい方法を試みる。本手法の可能性については、19年度に「1番染色体短椀に座乗するGn1遺伝子」に関して予備的解析を行い、本手法の有効性が確認された。従って、新規の原因遺伝子の発見も十分期待できると考えている。
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