畜産業で用いられる抗菌剤の中で,テトラサイクリン系抗生物質は抗菌スペクトルが広いこともあり使用量が多い抗菌剤のひとつである。テトラサイクリン系抗生物質は鉄イオンのような金属イオンと結合しやすいという性質を持つ。この特異的な性質を環境技術に応用した。本研究において,水酸化第二鉄,ヘマタイトそしてマグネタイトといった酸化鉄が,抗生物質を含む乳牛ふん尿の嫌気性消化に及ぼす影響を検討した。研究の目的は、得られたデータから動力学的モデルを用いて解析し,抗生物質を含む家畜ふん尿の嫌気性消化における鉄-抗生物質錯体形成の可能性を検討した。 実験の結果,オキシテトラサイクリンやクロルテトラサイクリンなどの抗生物質は嫌気性消化を“抑制された”定常状態に作用させ,発酵槽内のpHやメタン濃度に大きな変化はなかったものの,メタン生成が減少することが観察された。 また,嫌気性消化の基質に一定濃度の抗生物質が存在すると,メタン生成が遅滞し,コーンモデルがメタン生成をシミュレートするのに最も適切なモデルであることを明らかにした。 抗生物質が残留する条件において,直接的な電子移動メディエータとしてヘマタイトおよびマグネタイトのような酸化鉄の役割は、抗生物質と錯体の形成よりも優先されないことが示唆された。 すなわち嫌気性プロセスにおいて,水酸化第二鉄はヘマタイトおよびマグネタイトよりも抗生物質阻害に有効であると結論付けた。 これらの研究成果は,テトラサイクリン系抗生物質のような金属イオンと錯体を形成する動物用抗菌剤が家畜糞尿に残留する場合に,水酸化第二鉄を用いたメタン発酵プロセスが,動物用抗菌剤の拡散防止に寄与することを示唆するものである。
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