研究課題/領域番号 |
19F19116
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研究機関 | 公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター) |
研究代表者 |
片岡 一則 公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター), ナノ医療イノベーションセンター, センター長 (00130245)
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研究分担者 |
ABBASI SAED 公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター), ナノ医療イノベーションセンター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-04-25 – 2021-03-31
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キーワード | RNA医薬 / ゲノム編集 / 高分子ミセル / CRISPR/Cas9 |
研究実績の概要 |
本研究は、Cas9 mRNAとガイドRNAの送達によるCRISPR/Cas9システムの生体内導入を目指し、高分子ミセル型RNAキャリアを基盤とした送達技術を開発することを目的としている。その際、(1)生体内でのRNAの酵素分解を抑制すること、(2)鎖長の全く異なるCas9 mRNAとガイドRNAを共送達すること、(3)標的細胞に効率的に取り込ませることが課題となる。本年度は、これら3つの課題を解決するための基礎検討を行った。 (1)について、高分子ミセルを構成する高分子間の化学架橋、mRNAと結合するカチオン構造の最適化、さらには独自の手法を用いたRNAの化学修飾を行うことで、高分子ミセルの構造を安定化し、酵素分解を抑制することに成功した。(2)について、ゲノム編集効率を向上させるための、Cas9 mRNAとガイドRNAの高分子ミセルへの搭載手法に関して、画期的な発明を行った。(3)について、肝細胞を標的として、そこに多量に発現するアシアロ糖タンパク質受容体のリガンドであるトリアンテナNアセチルガラクトサミンを表面に搭載した高分子ミセルの開発を行った。さらに、そのリガンドが機能することも確認した。 さらに、次年度の計画を前倒しし、in vivoゲノム編集にも取り組んだ。ここでは、特異的なゲノム編集に伴い蛍光タンパク質を発現する遺伝子改変マウスを用いて検討した。高分子ミセルを用いてCas9 mRNAとガイドRNAを投与した後、組織切片を用いて解析したところ、肝臓におけるゲノム編集が確認された。以上のように、本年度は、RNAを用いた生体内ゲノム編集に必要な基盤技術を確立し、それを用いてマウス肝臓においてゲノム編集を誘導することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、本年度、RNA送達に関する技術を開発し、次年度、それを用いた生体内ゲノム編集に取り組むことを計画していた。送達技術に関して、RNAの生体内での酵素分解の抑制、Cas9 mRNAとガイドRNAの共送達、標的細胞への選択的取り込みという3つの課題があった。本年度は、上述のように高分子ミセル型RNAキャリアを基盤として、これら3つの課題を克服し、次年度に生体内ゲノム編集実験を行う際に用いるRNA送達キャリアの構築に成功した。すなわち、当初計画した目標を達成した。更に、次年度の計画を前倒しして生体内ゲノム編集にも取り組んだところ、マウス肝臓にゲノム編集を誘導することに成功した。このように、当初の計画を超えた進捗も得られている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、次年度の計画を前倒しして、マウス肝臓にゲノム編集を誘導することに成功した。その際、ミセル設計を一つに絞り、ゲノム編集効果を検討したが、今後、様々なミセル設計の中から、ゲノム編集活性を高めるための最適化を行う必要がある。そこで、次年度は、本年度開発した上述のシステムを基盤として、複数種のミセルを調製し、マウス肝臓に導入することで効率的なゲノム編集活性が得られる組成を見出す。その際、本年度と同様、特異的なゲノム編集に伴い蛍光タンパク質を発現する遺伝子改変マウスを用いて検討するが、この評価系は簡便に感度良くゲノム編集活性を評価できることから、このようなスクリーニングに適している。さらに、ゲノム編集が誘導された細胞種の同定や、安全性試験いった、治療応用への展開に必要な検討を行う。細胞種の同定は免疫組織染色により行い、安全性試験は、組織学試験、血液検査、肝臓における炎症性因子の発現定量により行う。 また、これまでに、高分子ミセルは、肝臓だけでなく、脳、肺、関節といった様々な組織へのRNA送達において高い機能を示している。そこで、それらの肝臓以外の組織に対しても同様に、生体内ゲノム編集を試み、ゲノム編集活性の定量や、ゲノム編集が誘導された細胞種の同定、安全性試験を行う。 以上の検討で優れた成果が得られた場合、治療実験への展開を行う。その際、上述の実験で得られたゲノム編集活性や、ゲノム編集された細胞種の結果に基づき、ゲノム編集治療の標的疾患、標的遺伝子を選定する。これらの検討により、RNAを用いた安全かつ効果的なゲノム編集治療に向けた基盤が構築できると期待される。
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