研究実績の概要 |
「韻律特性を介した日中言語処理メカニズムの構築」について,2020年3月に,日本語を母語とし,中国語が中級レベルに相当する42名の中国語学習者を対象に,韻律を含む曖昧文の聞き取り実験および音節・語・文と関わる各種の中国語能力を測定するテストを実施して,日本人中国語学習者の特徴を考察した。統計的分析を行った結果,中国語の習得と共に,ポーズによる理解は向上するが,重音による理解の向上は難しいことが示された。これは母語の日本語における韻律表現と関連すると考えられる。また,クラスタ分析では,ポーズによる理解が高い学習者は,単文レベルに関わる理解が優れているという特徴が覗かれた。一方で,重音による理解の高い学習者は,産出能力および長会話聴解などの談話レベルの能力が高い傾向がみられた。こうして,学習者ごとに音節,語,文レベルの知覚・産出と韻律理解は異なっており,それはいくつかの習得パターン(クラスタ)があると分かった。それらの習得パターンに基づいて,単文レベルと談話レベルの内容理解に求められる言語能力を有効に活用することで,効率的に韻律が習得できると考えられる。この結果は今後の研究を展開するために,示唆を与えた。その結果は「日本人中国語学習者によるポーズと重音のプロソディ理解」(張セイイ・玉岡賀津雄・勝川裕子,2020『中国語教育』 18,71-88)に報告している。また,中国人日本語学習者が書いた作文の統計解析を行って,文法能力が作文の特性に影響していることを実証した。さらに,日本語のオノマトペの3種の接尾辞「Q」「ri」「N」から,象徴性の体系的な側面をコーパスで検討した。この論文も関西言語学会の学術誌に掲載されることになった(Akita, Zhang & Tamaoka, 印刷中)。
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