研究実績の概要 |
本研究では,オンラインで観測される経済・金融時系列データに統計的逐次解析の手法を導入し,時系列モデルにおける統計的逐次解析の理論を構築を進めてきた。特に自己回帰モデルを取り上げ,単位根検定の問題においてFisher情報量でサンプリングを止めたときに様々な統計量を推測に用いることで,単位根検定を含む時系列の統計的推測の手法を提案した。当該手法自体は1980年代にいくつかの論文で提案されたものであるが,別のアプローチによる分析で,その証明の問題点を正し,更に検定統計量と停止時の同時分布を導出し,停止時の期待値や分散などの特性値を数値的に計算する手法を構築した。これよって,従来の知見では難しかった当該手法の実装の際に停止時に現れるパラメータの設定方法が提案され,逐次検定法を実装可能にする研究成果である。これらの数学的貢献,また実用上の貢献は大きく,今後の応用が期待される。応用上では,例えば金融バブルの検出など経済・金融市場における非定常性がもたらす危機の早期発見に応用することが考えられる。 同じ数理的手法を使ってモデルのクラスを広げることを試みた。具体的には,疫学で重要な分枝過程に対し時系列モデルと同じ統計的逐次解析手法が適用でき,分枝過程の基本再生産数などの逐次検定問題の研究を行っている。Covid19のような感染症の感染者の数が増えていく状況を単純化し確率モデルにすると,各時点での合計の感染者の数は分枝過程としてモデル化できる。分枝過程の子孫の平均値(基本再生産数)が1より大か小かによって,分枝過程の統計的挙動が大きく異なる。応用可能になれば,例えば緊急事態宣言などの政策が発令された後,政策当局は感染症の基本再生産数が1を下回っているかどうかをできる限り早く知り,解除の意思決定を行うことが可能かどうかといった問題を解決するには有用であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
時系列モデルの逐次分析手法について,いくつかの方向への拡張を考えている。自己回帰モデル以外,MA, ARMA, ARIMA, ARFIMAといった様々な時系列モデルについて停止時を用いて統計的逐次解析の手法が適用することが考えられる。 特に金融時系列モデルとして最も関心が高いARCH, GARCHなどの非線形時系列モデルにおいても当分析手法が適用できると考えられ,それらのモデルの研究を行う予定である。さらに,変化点の問題についても研究を行う。膨大な経済・金融などのデータが秒単位でオンライン観測されている現状を考えると,未知の変化の変化点の早期探索,モデルの早期探知が重要な課題になっている。 想定するモデルのクラスをさらに広げる。前年度から単純分枝過程の子孫の平均(基本再生産数)の臨界性についての逐次検定の問題の研究を行っている。現段階では,移民項なしと移民項ありの分枝過程について逐次臨界性検定の理論ほぼできており、これを完成させる。時系列の単位根過程と爆発的な過程,分枝過程の臨界的と優臨界的な状況のような非定常過程のように,Fisher情報量(条件付きFisher情報量)の極限にランダムネスが残る場合,統計学において,非エルゴ―ド的な確率過程と呼ぶ。非エルゴ―ド的な確率過程は不安定な挙動を示すので、社会的コストを削減するために早期発見が重要で、逐次統計解析の適用が有効である。時系列モデルと分枝過程以外にも,非エルゴ―ド的統計過程が考えられるため,そのような例について同様の分析手法を適用することを考える。
|