研究課題/領域番号 |
19F19337
|
研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
杉本 直己 甲南大学, 先端生命工学研究所, 教授 (60206430)
|
研究分担者 |
GHOSH SAPTARSHI 甲南大学, 先端生命工学研究所, 外国人特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2019-11-08 – 2022-03-31
|
キーワード | DNA二重鎖 / 構造安定性 / 熱力学 / 分子クラウディング / 安定性予測 |
研究実績の概要 |
本研究では細胞核内に存在する核小体で起こるリボソームRNA(rRNA)の形成における分子環境の効果を定量的に解析することを目的とする。そのために、2019年度は核小体内クラウディング環境を模倣した環境におけるDNA二重鎖の構造安定性を検討した。以前の報告から核小体内クラウディング環境はポリエチレングリコール200(PEG200)が含まれる溶液環境で模倣できることから、40%PEG200および0.1 M NaClが含まれる溶液で二重鎖構造の安定性を網羅的に解析した。その結果、DNA配列と安定性の法則を決定することができた。本成果により40%PEG200および0.1 M NaClが含まれる溶液中において、任意のDNA配列の二重鎖構造の安定性を予測できるパラメータを決定することができた。本研究成果をGhosh研究員が「日本核酸化学会第3回年会・ISNAC2019第46回国際核酸化学シンポジウム」で発表したところ、その成果が評価され、「Ohtsuka Award(ISNAC Outstanding Oral Presentation Award for Young Scientist 2019)」を授与された。得られたパラメータは40%PEG200および0.1 M NaClが含まれる溶液のみに適応できるという欠点があった。そこで、あらゆる分子クラウディング環境に適用できるようにするため、PEG200以外の異なる分子クラウディング環境での測定を進めた。その結果、構造安定性が水の活量と分子クラウディングを引き起こす分子の構造に依存することを見出した。これらの結果からパラメータの改良を進め、より汎用性を高めた安定性予測法を構築することができた。本成果に関しては、現在論文投稿中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核小体内を模倣したPEG200を含む溶液環境でDNA二重鎖構造の安定化予測は、rRNAへの転写反応の鋳型配列依存的な転写速度を予測するのに不可欠であり、そのパラメータを算出できたことで今後のrRNAの転写及びフォールディングの研究の進展が期待できる。得られたパラメータは40%PEG200および0.1 M NaClが含まれる溶液のみにしか適応できないため、異なる分子クラウディング環境でも活用できるパラメータも開発も行っており、その成果をまとめ、論文投稿中である。以上から、現在まで研究は順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度は分子クラウディング環境下での転写反応に対する影響を検討する。転写反応のテンプレートDNAには、ヒトrRNAの配列中に存在するグアニン四重鎖構造を形成しうる領域を含むDNA配列を選択する。必要なDNAプライマーを設計し、PCR反応を活用して目的のDNAテンプレートを調製する。 続いて、HeLa細胞を大量に培養し、細胞からRNAポリメラーゼIを抽出および精製する。調製したDNAテンプレートと精製した酵素を用い、ターゲットとする転写領域を含むDNAの転写反応を分子クラウディング環境を変えながら行う。得られる転写産物の量から転写速度を、転写産物の構造からフォールディング効率を定量的に調べる。ポリメラーゼの抽出が困難な場合は市販のT7RNAポリメラーゼを代わりに用いる。また、転写速度は鋳型DNA二重鎖の安定性に依存することから、DNAの二重鎖構造の安定性予測を元にした転写速度の解析についても行う。以上から、分子クラウディング環境が転写中あるいは転写後のRNA構造変化に及ぼす影響を定量的に調べる。
|