金属触媒単独を用いた有機合成反応は多数報告されているが、効率的にエネルギーを活用した反応は限られている。光触媒と金属触媒を適切に組み合わせ、それぞれのプロセスを効率的に機能させれば、環境調和型の反応として機能することが期待できるが、このような研究例は少ない。 理研の侯有機金属化学研究室では、立体的にかさ高いシクロペンタジエニル配位子と反応性の高いアルキル種を組み合わせることにより、これまで制御が難しいとされた一連のハーフサンドイッチ型希土類ジアルキル錯体を創製し、それらより極めて多彩でかつユニークな触媒活性を示すカチオン性希土類モノアルキル種の創製に成功し、C-Hアルキル反応を達成した。本研究課題では、これらの触媒技術に光触媒系を組み合わせた、効率的な有機合成反応の開発に着手した。 まず、新規軸不斉化合物の合成反応を開発するため、モデル化合物としてイミンユニットを配向基として有する化合物を合成し、スチレンを用いたアルキル化を検討した。オレフィン重合反応で高い活性を示すスカンジウム触媒を用いて反応を行ったところ、想定したナフチルユニットのアルキル化反応だけでは止まらず、イミンユニットへの付加環化反応によるアミン化合物が主に生成した。さらに触媒を検討したところ、イットリウム触媒が高い選択性を示し、位置選択的な環化アルキル化反応を見いだした。また、キノリンユニットを有する芳香族化合物のアルキル化反応についても検討し、キノリンのオルト位が選択的にアルキルされた化合物が得られた。さらに、メチルキノリンユニットを有する場合は、キノリンユニットではなく、ベンゼン環のオルト位選択的なアルキル化反応が進行した。このような化合物は軸不斉の発現が期待されることから、光学活性な希土類錯体触媒による不斉反応への展開は興味深い。
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