研究課題/領域番号 |
19F19345
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
関 修平 京都大学, 工学研究科, 教授 (30273709)
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研究分担者 |
CHA WON-YOUNG 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-10-11 – 2022-03-31
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キーワード | ポルフィリン / ポルフィノイド / π-πスタック / 芳香族性 / 芳香族性反転 / 伝導度 / ラジカル / TTF |
研究実績の概要 |
芳香族性の概念は、現代の化学とほぼ同じ歴史を有し、周期的なπ共役電子構造から生じるエネルギー安定化が分子の光電子特性や化学反応の理解に重要な役割を果たすため、絶え間ない研究対象となっている。有機化学の革新性の根源は芳香性と反芳香族性に関連していると言うこともできよう。近年、さまざまなレーザー分光ツールの開発により、芳香族性にかかわる研究の主眼は、基底状態から励起状態へと移行し、光化学反応と励起状態プロセスの包括的な理解が進みつつある。Cha WonYoung氏は、26および28のπ電子を有する共役コアと電子豊富なTTF(ドナー-アクセプター-ドナー(DAD)システム)で構成される新奇なテトラチアフルバレン(TTF)環化拡張ポルフィリンをその研究対象とし、溶液状態での最低の三重項励起状態での(反)芳香族化によって支配的に(非)安定化された分子内2電子移動プロセスの理解を進めている。特に、令和1年度は励起状態の芳香族性の反転と、固体状態のπ-π積層分子系からの光誘起電荷キャリアの生成との関係について着目して研究を進めた。 この分子系の最大の特色は、拡張ポルフィリンの中でも特に大きな骨格半径を有するにも関わらず、強いπ-πスタック構造が単結晶中においても観測される点である。ポルフィリノイド系におけるπ-πスタックの精密制御は大きな一般に困難で、この新しく合成された分子システムは、ポルフィノイド系におけるπ‐πスタック構造形成のメカニズムの理解に資すると考えられる。 また、拡張ポルフィリンシステムの分野における光伝導機構の理解のための分子モチーフとして、時間分解マイクロ波伝導率(TRMC)を適用し、励起子・電荷キャリアの完全実験的定量を介して、溶液相・固相の双方における、励起状態の芳香族性の逆転と電気伝導率の相関関係の解明を目指して研究を展開している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和1年度に進めた研究の項目をいかに列挙する: 1.主共役経路に26π電子を有する合成ドナー-アクセプター-ドナー(D-A-D)タイプの拡張ポルフィリンの合成と単結晶分離(28πヒュッケルタイプの反芳香族種についても検討) またD-A-D分子に対する中性および二プロトン化種の単結晶を低速拡散法により調製 2.得られたDAD分子凝縮相に対し、単結晶X線回折(SC-XRD)の測定に成功。また、溶液中、中性および二プロトン化形態の分光学的(定常状態と励起状態の双方において)および電気化学的特性の確認。大環状[4n + 2] Huckelタイプの芳香族特性を1H-NMR酸滴定で確認。分子軌道(MO)の形状、エネルギーレベル、電子遷移、および磁気特性について量子力学的計算による推定を実施 3.非接触伝導度測定法であるFP-TRMC法をこれらD-A-D分子凝縮相に適用し、強いπ-πスタック構造を有するジプロトン化種単結晶からの明瞭な光誘起電気伝導率の確認(一方で中性種はごくわずかな過渡信号しか示さないことを確認)光誘起EPR測定法およびナノ秒過渡吸収(ns-TA)測定のための中性およびジプロトン化種の単結晶を調整
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今後の研究の推進方策 |
芳香族性反転の電子・磁気的特性に関する上述の仮説の実証に向けて、令和2年度は次の項目に特に着目して研究を展開する予定。 1)単結晶体における反射吸収分光法(NIR領域をカバー)による電子構造推定 2)光誘起EPR測定により、励起状態の溶液状態(モノマー)と単結晶(π-πスタック構造)の両方からのスピン角運動量・ラジカル安定性の評価 3)これら凝縮相におけるπ-πスタック構造がSC-XRD構造と一致しているかどうかの単結晶のTEMによる形態観測および粉末XRDによる検証 4)FP-TRMCにより得られた強い光伝導度信号における寄与過渡種をナノ秒過渡吸収測定により完全非接触・実験的検証 5)基底状態と励起状態の間のπ共役経路長の変化の定量分析に向けて、FT-IRおよび過渡IR分光法による検証(芳香族性の反転) 6)基底状態と励起状態(分子内電子移動)の間の特定の位置(電子供与体部分)における結合長変化をFT-IRおよび過渡IR分光法により検証 7)最低一重項および三重項励起状態の計算(分子構造、磁気特性; NICSおよびACID)による検証
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