研究課題/領域番号 |
19F19354
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
荻野 拓 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (70359545)
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研究分担者 |
SUGALI PAVAN KUMAR NAIK 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-10-11 – 2022-03-31
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キーワード | 鉄系超伝導体 / バルク磁石 / 臨界電流 |
研究実績の概要 |
本研究では、新規鉄系超伝導体CaKFe4As4(1144)を用いた革新的な超伝導バルク磁石の開発をめざした。CaKFe4As4は、高い転移温度と、転移温度近くまで高い臨界電流密度を維持する優れた特性を有し、キャリアドープが不要で特性が均一、かつ多結晶体でも高い臨界電流密度が実現可能である。一方で合成条件が非常に狭く、特に超伝導線材化に必須なAgシース材等との反応で容易に分解することから、線材化のめどは立っていない。そこでシース材が不要、かつ均一性などの特徴を活かした応用として超伝導バルク磁石の開発を目指した。今年度は、まず単相試料が合成できる条件の探索を行った。バルク体を作製するには、原料となる1144を作製する過程と、作製した1144をSPS装置を用いてバルク体に成形する過程があり、この双方を最適化した。様々な出発組成と温度条件で合成条件の最適化を行い、二回焼成、かつ急冷を行うことで不純物を含まない1144試料の合成に成功した。またこの試料を出発原料に用いて、SPS法でバルク体の作製を試みた。粉末充填方法、温度パターン、電流値及びホットゾーン構成などを最適化した。また作製した試料のXRDによる構成相の確認、磁化率測定による超伝導転移温度と臨界電流密度などの特性を迅速に評価し、合成にフィードバックする体制を整えた。当初SPS処理により1144相の分解が起こってしまっていたが、これらを最適化することで相の分解を抑えた上で、理論密度の95%以上の高密度化に成功した。一方で粒界には若干ではあるがFeAsなどの不純物が析出しており、これが臨界電流を抑制していることが示唆された。また当初次年度に行う予定であった、低融点金属の添加効果についても検討を行い、Sn添加が1144の分解を起こさずに臨界電流を向上させることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、1144相を用いた鉄系バルク磁石の開発に当たり、基盤となる1144相を用いたバルク体の作製を目指して様々な実験を行った。まず原料となる1144相の合成条件の最適化を行った。出発組成及び作製条件の最適化により、FeAsなどの不純物を含まない1144相の合成に成功した。更にこの原料を用いてSPS法による1144バルク体の作製条件最適化を行った。温度パターン、保持時間など様々なパラメータを最適化し、また温度だけでなく電流値を最適化するなどにより、1144相の分解を抑えた上で95%以上の高密度化バルク体の作製に成功した。現在は10mmΦサイズであるが、今後大型化を試みる予定である。ただし、作製した1144バルクの微細組織では粒界に不純物相が存在しており、これが臨界電流特性を抑制していると考えられる。次年度に不純物低減及び臨界電流特性向上を検討する予定である。またこれらの実験を通じ、作製した試料のXRDによる構成相の確認、磁化率測定による超伝導転移温度と臨界電流密度などの特性を迅速に評価し、合成にフィードバックする体制を整えた。更に、次年度以降で行う予定であった、1144相とSn・Pb・Gaなど低融点金属との反応性を評価した。これら低融点金属を1144に添加し、反応性を評価したところ、このうちSnが最も1144相との反応性が低く、相の分解が起こらない一方で、粒界の空隙を埋めることで、臨界電流密度が向上することが分かった。これらの成果は既に一報を論文として投稿したほか、他に二報投稿の準備を進めている。このように、当初目的としていた1144相の単相合成、バルク体の作製を予想以上に達成したことに加え、20年度の予定事項も一部前倒しで実現することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に確立した高純度1144試料作製技術、及び10mmΦの高密度バルク作製技術を基盤として、臨界電流特性の向上、バルク体の大型化、評価体制の充実を図り、実際の応用に向けた開発を加速する。まず、捕捉磁場向上のためにバルク体のさらなる高臨界電流特性化を図る。前年度の実験結果から、SPS法でのバルク体の高密度化には成功したものの、粒界に不純物の析出が見られ、これが臨界電流を制限していることが示唆された。そこで電流制御に加え、外部加熱源としてホットゾーンを併用すること、今年度効果が確認されたSn添加を行う等で、不純物析出を抑制しつつ高臨界電流を実現できる条件を探索する。また臨界電流密度を更に向上させるために、10mmφ程度の比較的小型のバルク体を用いて、出発原料の微細化、不純物置換等、様々な観点から特性向上を試みる。これらと並行して20mmΦ以上の大型化バルクの作製も行う。既にカーボン型等の実験準備は進めており、今後実際の合成も進める。大型バルクの作製に当たっては、ボールミル等を使った大量の粉末を準備する工程を確立することで、効率的な研究を可能にする。この粉末を用いて大型バルクを作製し、小型バルクと同等の高特性を維持することを目指す。またバルク体の特性評価には、実際に捕捉できる磁場強度を測定することが不可欠である。共同研究などを通じ、捕捉磁場を測定できる体制を確立する。
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