研究実績の概要 |
近年、我々は、四肢動物の進化の過程で出現した指間細胞死には、大気中の「酸素」に由来する活性酸素種が必須なことを明らかにしてきた。この成果は、疾患の発症に深く関連する酸化ストレスが、個体発生の可塑的変化を引き起こすだけでなく、形態進化を導くことを示唆していた。本研究では、酸化ストレスによって獲得されたとされる指間細胞死による発生プロセスの進化の過程を理解することを目的として、(a) 爬虫類胚を題材に肢芽の形態パターンのメカニズムを明らかにし、さらに (b) 羊膜類ニワトリ胚を題材に指間細胞死の制御を理解することを試みた。その結果、(a) 前後軸方向に非対称なユニークな水かきをもつ爬虫類胚の肢芽の形態パターンが、水かきをつくる鳥類(アヒル)や哺乳類(コウモリ)の指間で強く発現することで、Bmp を抑制して、指間細胞死を阻害する Gremlin の発現の変化ではなく、指先端での Bmp シグナルの非対称な発現による骨分化タイミングの違いによって形成される事例を明らかにした (Cordeiro et al., under revision)。さらに、(b) ニワトリ胚の指間細胞死の制御が、チオレドキシンシステムによる AP-1 ファミリー転写因子 MafB のレドックス制御が、ニワトリの肢芽の細胞死制御に関わっている可能性を明らかにした(未発表)。また、酸素と形態進化に関する総説を発表した(Cordeiro and Tanaka, under revision)。
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