研究課題/領域番号 |
19F19397
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白井 厚太朗 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (70463908)
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研究分担者 |
CHUNG MING-TSUNG 東京大学, 大気海洋研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-11-08 – 2022-03-31
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キーワード | 耳石 / 魚類回遊 / 代謝 / 同位体 / 浸透圧 |
研究実績の概要 |
本研究は,これまで魚類生態学にほとんど応用例が無かった水素・酸素同位体比について部位別分析を行うことで魚類の回遊・代謝指標の新たな確立を目指すものである.本研究は,水素・酸素が飲水及び代謝により異なる保存性で取りこまれ,かつ保存性が血液・筋肉・内蔵・耳石など部位ごとに異なることに着目することで,新たな指標の開発を目指す.本指標が確立されれば「どの塩分で,どの程度の期間滞在したか」「自然状態の飲水量・飲水速度」を定量的に評価することが可能となる.2019年度は血液・体液サンプルから水分のみを蒸留する手法の開発を進めた.蒸留手法については,微量の血液・体液などから水分を蒸留するための真空ラインを構築し,基礎実験を行い実験条件の検討を行った.試行錯誤により改善されたものの,現段階で回収率が90-95%と若干低いためさらなる改善が必要である.ただし,蒸留前後の同位体比を比較した結果,前処理による同位体分別の程度は天然環境で期待される変動幅と比較して比較的小さいので,対象魚種や研究目的次第では実用の見込みが立ったと言える.また,主にリン酸カルシウムで構成される骨に微量に含まれる炭酸塩の酸素炭素安定同位体比の分析手法の検討を行った.有機物を除去するための加熱処理や化学処理によって同位体組成が系統的に変化することが明らかとなった.今後指標として応用するためには,変化のメカニズムと最適な処理方法を検討する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は血液・体液サンプルから水分のみを蒸留する手法の開発を進めた.また,骨の酸素炭素安定同位体比から代謝を推定するための基礎実験を行った.本研究は新規手法の開発が目的であり,多くの基礎実験の蓄積が必要であるが,ひとたび手法が確立できれば新規性の高いデータを効率的に取得することが可能である.実際のサンプルへの応用はまだ実施できていないが,基礎実験によるテータの蓄積は2019年度末の時点ではほぼ順調に進んでいるといえる.ただし,本報告書を書いている5月時点では新型コロナウィルスの影響で3ヶ月ほどの空白期間があり,今後の見通しもわからないため,進捗の遅延が見込まれる.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の前半は分析手法開発を継続して進める.蒸留手法については,現在回収率が90-95%と若干低いため,回収率を高めるための基礎実験を行う.適切な真空ラインの構築や蒸留条件の検討,同位体分別の影響評価などを実施する.また,主にリン酸カルシウムで構成される骨について,微量に含まれる炭酸塩の酸素炭素安定同位体比および有機物の窒素炭素同位体比の分析手法確立のための基礎実験を行う.炭酸塩成分の安定同位体比は前処理方法によって影響を受ける事が2019年度の結果から明らかとなった.2020年度は,前処理方法によって系統的に変化するか,魚種依存性があるか,などを評価することで新たな指標開発のための基礎的な情報を得る.これらの基礎実験の目処が立つと期待される2020年度後半から実際のサンプルへの応用を開始する.
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