2021年度は血液や筋肉の水分の酸素炭素同位体比の生理・行動指標としての有用性の検証のため,ニホンウナギを塩分を変化させながら飼育し,飼育水の塩分(飼育水の酸素同位体比)の変化に対して,血液中や筋肉中の酸素同位体比がどのように変化するのかを検証した.また,筋肉と血液の酸素同位体比の精密な比較を行った.ニホンウナギを水槽で約2ヶ月間飼育し,淡水から海水へ,その後海水から淡水へ変化させていき,血液の水分の酸素同位体比組成がどのように変化するのかを調べた.その結果,血液中の水分の酸素同位体比は飼育水の酸素同位体比に追従するように変化し,いずれも数日以内に入れ替わるという結果が得られた.しかし,両者の同位体比が必ずしも一致する訳では無く,血液は代謝水の影響を受けている可能性が示唆された.また,入れ替わりの速度についても,淡水から海水に変化させるより,海水から淡水に変化させる方が,入れ替わり速度が遅い可能性が示された.また,筋肉と血液の水分の同位体比も一致せず,筋肉の水分は血液よりもより強く代謝水の影響を受けていると示唆された. 2020年度に引き続き,奄美大島から採取された魚の筋肉と血液の水分の同位体比について追加分析した結果,純淡水環境での個体間変動より,汽水・海水域での個体間変動の方が大きく,異なる塩分環境を短期間で移動していると考えられる変動パターンが見られた.このことは,血液や筋肉の水分の酸素同位体比が短期間での魚の移動を追跡できる有用な手法となることを示している.
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