研究課題/領域番号 |
19F19411
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
池谷 裕二 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (10302613)
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研究分担者 |
ZHOU ZHIWEN 東京大学, 薬学研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-10-11 – 2022-03-31
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キーワード | アストロサイト / てんかん発作 / cyclic AMP |
研究実績の概要 |
本研究の目的はアストロサイトにおけるcAMP上昇がてんかん発作に与える影響を検証し、特に、発作を抑制する可能性を検証し、そのメカニズムを解明することである。本研究は、主にアストロサイトに光活性化アデニル酸シクラーゼを発現する遺伝子改変動物を用い、海馬への光刺激によって海馬アストロサイトのcAMPを時間分解能よく上昇させる。 本研究は現段階では、すでにてんかんモデルマウスにおいて、アストロサイトのcAMP上昇による発作程度の変化を調べた。結果として、急性てんかんモデルマウスでは、アストロサイトのcAMP上昇は発作を抑制する方向に働くが、慢性てんかんモデルでは、アストロサイトのcAMP上昇は発作を誘起する傾向がある。そのため、標的を急性てんかん発作にしぼり、アストロサイトのcAMP上昇が急性てんか発作を抑制するメカニズムを解明するための実験を行った。カイニン酸によって急性てんかんを起こしたあと、cFosの免疫染色によって活動した海馬の神経細胞を標識した。発作の前半では、光照射によってアストロサイトのcAMPレベルが上げられた群では、抑制性細胞の活動率がわずか上昇した。また、発作の後半では興奮性性神経細胞の活動率は光照射によって低下した。このことから、アストロサイトにおけるcAMP上昇は発作の早期に抑制性細胞を活動させ、発作を抑える方に働いた可能性がある。 そのほかに、アストロサイトのcAMPによって神経細胞が活動するメカニズムを検証するために、in vitroの実験系を立ち上げた。さらに、てんかん発作様神経活動によってアストロサイトのcAMPがどう変動するかを検証するために、cAMPセンサーを発現させるウイルスを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定した慢性てんかんモデルにおいて、脳波による発作の予測とアストロサイトの操作による発作の干渉という計画を凍結する。その代わり、急性てんかんモデルにおいてアストロサイトのcAMPによるてんかん発作の抑制作用のメカニズムを解明する。計画は多少変動するが、すでに急性てんかん発作を抑制する確実なデータが得られているため、課題は進行しやすいと考えられる。正常時またはてんかん発作時いずれにおいて、アストロサイトのcAMP経路活性化が神経活動に与える影響についてはまったく不明なので、これらを解明していくのは病気の治療だけではなく、基礎科学にも大きく貢献できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定した慢性てんかんモデルにおいて、脳波による発作の予測とアストロサイトの操作による発作の干渉という計画を凍結する。その代わり、急性てんかんモデルにおいてアストロサイトのcAMPによるてんかん発作の抑制作用のメカニズムを解明する。まず、急性脳スライスによって局所にアストロサイトのcAMPを光照射で上昇させ、その近傍または離れた神経細胞における神経活動マーカーであるcFosの発現を調べる。これによってアストロサイトによる影響は距離依存的であるかを検証する。さらに、阻害薬を処置することで、神経細胞を活動させる因子を同定する。また、てんかん発作によってアストロサイトのcAMPが上昇し、それが内因的なフィードバック抑制として発作を弱める可能性がある。そのため、てんかん発作様活動によるアストロサイトのcAMPの変動をcAMPイメージング法によって明らかにする。現在アストロサイトにcAMPセンサーを発現するウイルスは作製済みである。そしてアストロサイト特異的にセンサータンパク質を発現させ、急性スライスを用いたin vitroの実験系を立ち上げた。
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