本研究は薬物によって誘起される急性てんかんモデル、および海馬硬化による慢性てんかんモデルの2つの動物モデルを用い、アストロサイトのcAMPシグナルによるてんかん発作への影響を調べた。 急性モデルの場合、てんかん誘導薬の腹腔内投与により発作を誘導した。投与するタイミングに合わせて青色光刺激をマウスの両側海馬に送り、光刺激によるアストロサイトのcAMPの上昇は発作のレベルをどのように影響したかを調べた。光刺激を受けたマウスのほとんどは重篤な発作まで至らなかった。さらも、急性モデルの場合、発作誘導後にマウスの脳を摘出し、神経細胞活動マーカーであるcFosに対する免疫染色によって光刺激、発作、または両者によって活動した海馬の神経細胞群を割り出した。 慢性てんかんモデルの場合、カイニン酸を片側海馬に投与し、海馬硬化を誘導した。3週間後に、青色光刺激でアストロサイトのcAMPレベルを海馬で上昇させ、マウスの行動変化をを観察した。結果として、光刺激を受けたマウスはてんかん発作を示した。また、同じ個体を光刺激なしの条件で行動観察した場合発作はほとんど見られていないことと、bPACを発現しないてんかんモデルマウスでは光刺激による発作が見られていないことから、発作はアストロサイトのcAMP上昇によって誘導されたと考えられる。その後、マウスの脳を摘出し、海馬硬化の程度と海馬硬化による組織学的変化を免疫染色法によって確認した。 本研究は今まで検討されていないアストロサイトのcAMPとてんかん発作の関係を初めて検証した。結果として、慢性てんかんモデルでは発作を抑制し、急性てんかんモデルでは発作を誘導することが明らかになった。これらの発見は、今までのてんかん発作の研究では注目されていなかったアストロサイトのcAMPシグナルが、てんかん発作の程度と有無を左右する重要な因子であることを示した。
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