研究課題/領域番号 |
19F19710
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡部 真也 東北大学, 理学研究科, 准教授 (70435973)
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研究分担者 |
SCHRADER PHILIP 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-11-08 – 2022-03-31
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キーワード | 幾何学的高階発展方程式 / Sobolev-勾配流 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、種々の幾何学的汎関数に対して通常とは異なる位相の意味での勾配流を構成し、その時間大域挙動を解析することで幾何学的発展方程式の解析に新たな観点を与えることである。例えば、曲線の長さ汎関数に対する L2 の意味での勾配流は曲線短縮流であり、これまで様々な解析がなされてきた。一方、曲線の長さ汎関数に対する Hilbert 空間 H1 の意味での勾配流は、非局所項をもつ常微分方程式系として導出される。閉曲線の場合には曲線短縮流は有限時間で一点に収縮するという特異性を発生されることが知られているが、H1勾配流においては時刻無限大でしか特異性が発生しないとする研究が行われている。本研究では、上述の目的に沿って、例えば、曲率の二乗積分で与えられる弾性エネルギーに対して H2 勾配流を導出し、その時間大域可解性およびその漸近挙動を解析する。 本年度は、研究実施計画に伴い、H2-弾性流の時間大域可解性を示すことに成功した。一方、時間大域可解性の次の課題として据えていた解の時刻無限大での定常解への収束についても、その鍵となる勾配型不等式を示すことに成功した。現在はそれを適用して実際に解の収束(部分収束ではなく完全収束)を示す議論を詰めている段階である。その際に弾性エネルギーの第二変分の性質を調べる必要が生じるが、その過程において時間大域存在の証明を簡略化することに気がつくことができた。研究開始当初は解の収束の証明がこれほど困難であるとは想定していなかったものの、結論に至る道筋はほぼ明示することができた。L2-流の場合とは異なる時間大域解の存在を示す議論が得られるなど、H2-勾配流の特性を垣間見ることができたと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は平面閉曲線に対して定義される弾性エネルギーに対する H2-勾配流(以下、H2-弾性流とよぶ)を構成し、その時間大域挙動を解析することである。本年度は、まず、H2-弾性流の時間大域可解性を示すことに成功した。加えて、その解の時刻無限大での定常解への収束を示すための鍵となる勾配型不等式の構成に成功した。研究開始当初は時刻無限大での定常解への収束の証明がこれほど困難であるとは想定していなかったものの、本問題に適用可能な勾配型不等式を構成できたことで証明への道筋はほぼ定まったと言える。また、勾配型不等式から解の完全収束を示すにはまだギャップがあるが、それを埋めるために弾性エネルギーに対する第二変分の性質を解析した。その副産物として、H2-弾性流の時間大域解の存在定理の証明を簡略化することに成功した。これまでは L2-弾性流の場合と同様の手法に依っていたが、第二変分の性質とH2-勾配流の特性を組み合わせることによって、より簡潔な証明を与えるに至った。現在は解の完全収束を示す議論を纏めている段階であるが、研究開始当初には予想していなかった困難に対して、その解決の道筋を示すに至ったことから、ここまでの研究進捗状況は「おおむね順調に進展している」と評価することとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の吃緊の課題としては、H2-弾性流の解の平衡状態への完全収束を示すことである。現在は、解である曲線族のパラメータ表示を取り替えることによって、適当な制限のもとで勾配型不等式を示すことに成功している。適当な制限のもとであるため、この勾配型不等式は解の完全収束の証明へと直結はしないわけであるが、この制限をある意味での射影と見なすことによって、制限を取り除いた場合への勾配型不等式へと拡張できるものと予想している。これを示すことで解の完全収束を示すことが可能となる。 高階 Sobolev-勾配流の応用として、メビウス汎函数などの結び目エネルギーに対する分数冪 Sobolev-勾配流を考察する。同汎函数に対する L2-勾配流の主要部の形状から、適当な分数冪 Sobolev 空間を選択すれば、同汎函数に対する分数冪 Sobolev-勾配流は H2-弾性流と同型の常微分方程式とみなすことができると予想される。本研究を効率よく推進するために、分数冪 Sobolev 空間の扱いに長ける E. Valdinoci 氏(Western Australia University)との共同研究を展開するべく、P. Schrader 氏が同氏を訪ね長期滞在する形で代表者も含めた共同研究を実施する。
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