本年度は弾性エネルギーに対するH2勾配流の定常解への完全収束について研究を実施した。L2勾配流の場合には、パラメータの変換など何らかの修正を加えた上でないと定常解への完全収束を示すことができない。その要因の一つとして、完全収束を示す際に必要となる勾配不等式をそういった変換を加えることなく示すことが困難であることが挙げられる。本研究において考察したH2勾配流の場合にはH2(ds)に適当な距離を定義した距離空間が完備となることを利用して、何の変換も加えることなく、勾配不等式を示すことに成功した。この結果を基に定常解への完全収束を証明し、論文として纏め学術誌に投稿中である。 弾性エネルギーに対するH2勾配流の研究は幾何学的汎関数に対する高階Sobolev勾配流を構成せんとする目的の第一歩と位置付けることができる。実際、上記の研究を基盤として、様々な応用を展開している。まず、閉曲線の長さ汎関数に対するH1勾配流に曲線が囲む面積を一定に保つという束縛を付した幾何学的発展方程式を考案した。現在、我々とG. Wheeler氏、V. Wheeler氏との共同研究として研究を継続しているところである。また、弾性エネルギーにメビウス汎関数を加えた汎関数に対するH2勾配流についても研究を展開している。この汎関数に対するL2勾配流については幾つかの研究が既になされているが、3/2階放物型と分類される型の方程式となるため、その解析は容易ではない。本研究は、新しい観点による勾配流を構成することによって、弾性結び目について動的な考察を与えることも目指すものである。 以上のように、当該年度に行なった研究は、幾何学的汎関数に対する高階Sobolev勾配流の研究のきっかけを作るに至った、学術的に価値のあるものであるといえる。
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