研究課題/領域番号 |
19F19717
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
丹野 英幸 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 主幹研究開発員 (30358585)
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研究分担者 |
MANOHARAN ROUNAK 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 研究開発部門, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2019-11-08 – 2022-03-31
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キーワード | 吸収分光 / 半導体レーザー / 極超音速流れ / 衝撃風洞 |
研究実績の概要 |
TDLAS(波長可変半導体レーザー吸収分光法)は、発振波長幅が極めて狭くコヒーレンス特性が良好な半導体レーザを用い、レーザー温度を最大数十kHzで周期的変化させることで発信波長を変化させる波長スキャンを行い、気流中の特定分子の吸収帯プロファイルを計測し、Voigt分布とのフィッティングにより目的分子もしくは原子の温度・密度を算出する分光法である。2019度は、JAXAが保有する高温衝撃風洞HIESTの試験気流同定用の専用TDLAS開発に必要な知見を得るための基礎試験を実施した。以下に5つの研究成果を記す。 HIESTは8km/sを超える極超音速試験気流を発生できるが、気流の持続時間は数ミリ秒と極めて短い。そこで①計測する分子(酸素分子、酸素原子、水分子、酸化窒素分子)の検討を数値計算コードを用いて実施し、低速(秒速3~4km/s)試験気流用には、感度が最も高い結果を示した水分子、高速用(秒速4km/s以上)には窒素分子を目的分子として選択した。次に②水分子の吸収体波長を発信する専用の半導体DFBレーザーをメーカーと交渉し特別に製作させた。③この半導体DFBレーザーを用いた計測評価用のTDLASプロトタイプを製作した。④プロトタイプを用いて大気中の水分子数密度(つまり湿度)と温度を計測し精度評価を行った。⑤精度評価では、波長スキャン周波数と計測精密度がトレードオフの関係であることから、室温湿度・室温を参照値として用いた。計測精密度2σが参照値の5%以下となることを評価基準として、20kHzの周波数での波長スキャンが可能であることを示した。 尚、吸収体の受光手法は、最も単純に吸収体プロファイルを得られる直接計測法と、高感度計測が期待できる差分計測法(バランスドレシーバを使用)を用いた。 更に、HIEST内部にTDLASを据え付け用プラットフォームも設計・製作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
TDLASで吸収帯を計測する分子を選択決定するために、数値予測コードによる評価を行ったが、当初候補分子として予定してた酸化窒素分子密度が、予想よりも低い可能性があるとの危惧が議論となった。特にHIESTの低速気流条件では危惧が高い。そこでHIEST低速条件用として、次候補分子であった水分子を選択することになった。しかし水分子の吸収波長を発信するDFB半導体レーザーは一般的に市場で入手可能でないため、半導体レーザーメーカーと直接交渉し特別に製作を依頼することになった。半導体レーザーは既に納入され、後述するTDLASプロタイプに組み込んで安定に動作している。このプロタイプはTDLAS計測精度を評価するために組み上げたが、予備試験結果は極めて良好であり、予想よりも高い周波数20kHzでの波長スキャン(すなわち50マイクロ秒毎のスキャン)が可能であることが実証され、本研究計画のスケジュールに遅延のインパクトは耐えていない。 また、風洞試験部内に取り付けるTDLAS設置用プラットフォームだが、予備試験として、設備運転時に風洞試験部に発生する機械振動を計測したところ、振動強度は予想よりも強く、微妙なアライメントが必要な光学装置への影響を避けるために、プラットフォームを計測部外部にも設置可能とする設計を行った。この外部設置型プラットフォームは機械振動の遮断が完璧であり、光路長が延長された影響も無視できたため、現状ではスケジュール通りにHIEST気流計測用TDLASの設置ならびに風洞試験の実施が可能であると予想する。またTDLAS計測結果評価用のHIEST気流数値予測コードによる気流密度・温度のシミュレーションは順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
HIEST計測用の外部プラットフォームの設計・製作ならびに風洞試験用TDLASの設置と動作試験を実施し、実際のHIEST風洞試験で試験気流計測を行う。具体的には気流密度と気流温度の定量値を計測し、実際の風洞試験気流計測に本TDLASを適用した際の計測精度の定量評価を行う。風洞試験では、昨年度の試した直接計測法と差分計測法の両者を比較する。差分法は直接法に比べ高感度だが外乱に弱いため、実際の風洞試験による評価が必須である。特に高温条件の場合には、試験気流が高温であるため気流自体の自発光現象による迷光の影響が外乱として危惧されるため、狭帯域バンドパスフィルタ、物理的な遮光装置の準備をすすめている。 HIESTの発生できる試験気流の速度(秒速2.4~8km/s)・温度(300~2000K)・密度(0.01~0.1kg/m3)範囲は極めて広いため、パラメトリックな風洞試験計測を実施し、TDLAS計測法が計測可能な気流条件範囲を同定する。更にHIESTの試験気流での定量評価が強く望まれる試験気流の一様性の計測と、それと同時に評価が必要な試験時間の計測も試みる。一様性の計測は、TDLASのレーザビーム位置を設備ノズル出口の上下方向及び前後方向に数百ミリずらすことで安易に可能である。試験時間の計測は、気流一様性の崩壊、すなわち試験コア気流の直径の収縮によって定量的に判断できることが期待される。尚、高速気流条件では酸化窒素分子の計測が水分子に対して優位との予測もあるため、酸化窒素分子の吸収帯を計測する際の機材の準備・検定準備も同時に行う。 研究成果は年度末に予定されている複数の国内学会で発表(衝撃波シンポジウム2020@千葉)する予定である。
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