研究実績の概要 |
概日時計の出力に関わる遺伝子として,神経ペプチド遺伝子を5つ,受容体を3つ,そして神経伝達物質として働くアミノ酸そしてモノアミンの関連遺伝子(以後,神経伝達物質関連遺伝子)2つに注目した.当該遺伝子の二本鎖RNAを短日条件で飼育した羽化直後のメス成虫に1 μg注射し,長日条件と短日条件に振り分けて20日間飼育した.なお,上記10遺伝子の二本鎖RNAを合成したものの,実際に注射実験を行えたのはそのうちの7つ(神経ペプチド遺伝子と神経伝達物質関連遺伝子)のみであった. 神経ペプチド遺伝子の二本鎖RNAの注射により当該遺伝子の発現は大きく抑制され,そのmRNA量は無処理に比べて1/8~1/145になった.同様に,神経伝達物質関連遺伝子のmRNA量も二本鎖RNAの注射により低下した.しかし,その抑制は弱く,無処理個体に比べて1/4~1/6程度のmRNA量であった.予想に反して,二本鎖RNA注射による卵巣発達への影響は見られなかった.しかし,神経伝達物質として働くアミノ酸関連遺伝子の発現抑制においては,本来卵巣発達が起きない短日条件下で無処理個体の卵巣発達が6%(n = 16)であったのに対し,二本鎖RNA注射個体では25%であった(n = 17).この割合は統計的には有意ではないものの,本遺伝子の発現抑制が卵巣発達を誘導する可能性が考えられる.また,卵巣を発達させた無処理個体では産卵は起こらなかったが,二本鎖RNA注射において卵巣を発達させた個体は産卵も行った.キイロショウジョウバエにおいては,この遺伝子が関連するアミノ酸は概日時計細胞間での連絡を担うと考えられている(King and Sehgal, 2020).ホソヘリカメムシにおいても,複数の概日時計の細胞間でのやり取りを通して日長を読み取っている可能性が考えられる.
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